毎日40人・年間1万人以上と会話しているRyoです。薬局カウンターに立っていると、「伝え方ひとつで患者さんの反応がガラッと変わるな」と何度も感じさせられます。今回は、その代表格であるフレーミング効果について、現場の実感とともに深掘りします。
言葉の枠組みが気づかぬうちに判断を左右する
なぜ同じ情報でも受け取り方が変わるのか
薬の説明でも、同じ内容なのに「この薬を飲めば90%の人が症状を抑えられます」と伝えるのと、「10%の人は症状が残る可能性があります」と伝えるのとでは、患者さんの表情がまるで違います。前者だと安心したように頷き、後者だと一気に不安顔。「数字は同じです」と補足しても、一度芽生えた不安はなかなか消えません。これがまさにフレーミング効果。情報の枠組み、つまり切り取られ方によって認知が誘導される心理です。
心理学の研究では、病気の治療方針を「生存率」で提示された人は積極的な治療を選びやすく、「死亡率」で提示された人は回避行動をとりやすいとされています。私の現場でも同様で、「副作用が出る確率は低いですよ」と言うより、「ごく一部の方に副作用が見られる可能性があります」と伝えた瞬間、患者さんは警戒モードに入ります。だからこそ、言葉の枠組みを意識して準備しておくことが信頼構築の第一歩です。
読者が抱えがちな悩み
営業職や医療職の方からよく受ける相談が、「必要な情報を伝えているのに、なぜかネガティブに受け取られてしまう」というもの。社内で資料を共有するときも、「経費削減に成功した」と胸を張って報告したら、「じゃあまだ削れるよね?」と上司に突っ込まれた、なんてことも。伝え方の枠が、聞き手の判断基準を勝手に決めてしまっているのです。
フレーミング効果が起こる原因を分解する
人は欠損情報に敏感である
人間の脳は、生き残るために危険を先読みする癖があります。少しでも損失や欠損を示唆する表現に触れると、防衛本能が即座に働く。私がインフルエンザのワクチン接種を案内するとき、「打つと重症化を防げますよ」と伝えると納得してくれる方が多い一方、「打たないと重症化する恐れがあります」と言うと、拒否反応を示す方が一定数います。マイナス面が強調された瞬間、「何か隠しているのでは?」と疑いのモードになるわけです。
既存の期待と一致すると安心し、ズレると不安が増す
患者さんが来局する前に抱いている期待も大きな要素です。ある高齢の男性は、「この薬は強いから胃が荒れる」と近所で噂されていたらしく、私が「胃薬も一緒にお付けしますから安心してください」と言っても、表情が晴れませんでした。そこで「この薬を飲んだ方の約80%は胃の不快感が出ていません」と、期待を上回る安心材料を示すと、「じゃあ試してみるよ」と前向きに変化。期待に寄り添いつつ、プラスの枠で情報を渡した結果です。
現場で感じたフレーミングの落とし穴
忙しい時間帯に新人スタッフが「在庫が足りないかもしれません」と報告してきたとき、私は一瞬構えてしまいました。でも状況を確認すると、実際は「今日必要な分は確保できていますが、週末分が不足しそう」という状態。最初に「足りない」と聞いてしまったせいで、冷静な判断が難しくなったのです。マイナスフレームは現場の意思決定を鈍らせ、余計なストレスを生みます。
伝え方を変える実践手順
ステップ1: 伝えたいゴールを先に決める
フレーミングは意図的に設計しないと、感覚に頼った言い換えで終わってしまいます。まずは「相手にどんな行動を取ってほしいか」を明確にしましょう。薬の服用継続なら「安心して続けてもらうこと」、社内の提案なら「改善のために協力してもらうこと」。ゴールが決まれば、そこから逆算して言葉を選べます。私は患者さん用に「安心・安全フレーズ集」というメモを作り、服薬継続を促すときは「症状の再発を防ぐための大事な一歩です」と肯定的に表現しています。
ステップ2: 損失ではなく獲得を強調する
人は得をするより損を避けたい心理がある一方、過度な損失フレームは不信感を生みます。そこで「損失を避ける」ではなく「得られるメリット」を強調するのがコツ。例えば、残業削減の提案で「この仕組みを使えば、毎月10時間の残業をカットできます。浮いた時間で顧客フォローができます」とメリットの枠組みを強調する。患者さんにも「この薬で朝のだるさが取れた方が多いですよ」と、得られる未来を描いてもらいます。
ステップ3: 必要なリスクは具体的にフォロー
とはいえ、リスクを隠すのはNG。私は副作用説明のとき、「確率は低いですが、もし吐き気が出たらすぐに教えてください。その場合は代わりの薬をご提案できます」と添えています。リスクをマイナスのまま放置せず、対処策までセットにしておくことで、安心フレームを維持したまま誠実さを伝えられます。社内提案でも「初期コストはかかりますが、3か月で回収できます」と時間軸を示すだけで、聞き手の不安はぐっと下がります。
ステップ4: 実際の言い換えを準備する
現場では時間との勝負。私は「伝え方リスト」を常に更新し、例えば「待ち時間が長くなります」より「受付順に丁寧に確認していますので、もう少々お時間ください」とポジティブな言い換えを徹底。スタッフ同士でも共有しておくと、誰が対応しても同じ品質を保てます。
活用シーン別の具体例
医療・薬局での応用
・新しい薬を提案するときは、「副作用はほとんどありません」ではなく「多くの方が副作用なく続けられています」と伝える。
・待ち時間の案内では、「30分以上待つかもしれません」ではなく「30分ほどでお呼びできますので、店内で休んでいてください」と時間枠をやわらかく提示する。
・健康診断の案内では、「受けないと病気を見逃します」ではなく「受けることで早期発見につながり、安心して生活できます」とメリットを前面に。
営業・接客での応用
・価格交渉で「今なら割引できますよ」という得フレームに加え、「長期で使うほどコストが抑えられます」と未来の価値を示す。
・クレーム対応で「できません」ではなく、「代わりにこちらの方法ならすぐ対応できます」と代替策を添える。
・社内報告では「問題ありません」だけで終わらせず、「予定通り進んでおり、次のステップに移れます」と前向きな枠組みで共有する。
家庭やプライベートでの応用
・子どもに片付けを促すとき、「散らかっていると怒るよ」ではなく、「片付けたらお気に入りのスペースが広くなるね」と伝える。
・友人をイベントに誘うとき、「来ないと損だよ」より「来たらリフレッシュできて週明けが楽になるよ」と利点を共有する。
・家族会議で「このままだと赤字だよ」ではなく、「今月はこの工夫でプラスにできるよ」と前向きに描く。
フレーミング力を鍛えるトレーニング
日常会話での言い換えストック作り
フレーミング力は、特別な研修がなくても日々の会話で磨けます。私はスタッフと雑談するときでも、「寒いですね」ではなく「今日は空気がキリッとしていますね」とポジティブに言い換える遊びを取り入れています。通勤途中に見かけた広告を写真に撮り、「このフレーズを安心フレームにするとしたら?」と自問自答するのもおすすめ。週末には家族と「今日の良かったことベスト3」を共有し、自然と肯定的な枠組みが身につくようにしました。小さな言い換えの練習を積むと、いざ本番でも瞬時に表現を選べるようになります。
チームでロールプレイを回す
薬局では週一回、5分だけロールプレイタイムを設けています。例えば「薬の在庫が切れかけているときの案内」というテーマで、ネガティブな伝え方とポジティブな伝え方を順番に演じてもらい、その違いを皆でフィードバック。自分では丁寧なつもりでも、同僚から「その言い方は不安を煽っているかも」と教えてもらえると新しい発見があります。営業チームであれば、新サービスの提案文を「損失フレーム」「獲得フレーム」「安心フレーム」と分けて練習するのも効果的です。
言葉のビフォーアフターを記録する
私は「フレーム切り替えノート」を持ち歩き、実際に使った言い換えと相手の反応をセットでメモしています。「待ち時間が長い→丁寧に確認→笑顔で感謝」といった形でビフォーアフターを残すと、どの表現が効果的だったか蓄積されていく。後輩にノートを見せると、「この言い方なら自分も使える」と即実践につながり、チーム全体のフレーミング力が底上げされました。営業資料でも、旧バージョンと改善後のコピーを並べて検証すると、成果が見えやすくモチベーションが高まります。
失敗から学んだフレーミング改善術
クレームを招いた表現を振り返る
私がまだ経験の浅かった頃、花粉症の薬を渡す際に「副作用は喉が渇くくらいです」と軽く伝えたところ、「それが困るんだよ!」と患者さんが怒って帰ってしまったことがあります。本当は「喉が渇く場合もありますが、水分をこまめに取れば多くの方は気になりません」と伝えるべきでした。失敗した表現を棚に上げず、どこに不安要素があったか丁寧に振り返ることで、次のフレーミングが洗練されます。
数字の出し方ひとつで信頼が変わる
以前、ジェネリック医薬品を紹介するときに「費用は3割ほど安くなります」とざっくり伝えたところ、患者さんから「具体的にはいくら?」と詰め寄られました。その後、実際の金額差を計算して「1か月で約1200円お安くなります。浮いた分で必要なサプリも揃えられますよ」と具体的に伝えたら、納得して切り替えてくれた。数値のフレームを曖昧にせず、相手の生活に結びつける表現が信頼につながります。
ネガティブワードを封じる代替表現集を作る
「できません」「無理です」「困ります」といった言葉は、聞いた瞬間に相手の心を閉ざします。私は「〇〇は難しいですが、△△なら可能です」「お時間をいただければ対応できます」と言い換えるリストを作成。スタッフにも共有し、ネガティブワードが出そうになったら、すぐに代替表現に切り替えるトレーニングをしています。結果、クレームが減っただけでなく、「この薬局はいつも寄り添ってくれる」と口コミが増えました。
注意点とよくある失敗
ポジティブに寄せすぎて信用を失う
良い枠組みを意識するあまり、実態以上にポジティブな表現をしてしまうと逆効果です。以前、後輩が「この湿布は全く副作用がありません」と説明してしまい、医師から「ゼロとは言い切れないよ」と注意されたことがありました。患者さんも隣で聞いていて「本当に大丈夫?」と不安を募らせてしまった。フレーミングは事実に基づいた範囲で行うのが鉄則です。
相手の価値観を無視すると響かない
言葉の枠組みは、相手の価値観に合わせて調整しないと刺さりません。ビジネスパーソンには「効率」「実績」というフレームが響きますが、ご高齢の方には「安心」「手間がかからない」が刺さります。私は患者さんの家族構成や仕事を聞きながら、「この方は何を大事にしているか」を探り、言葉を選びます。
チームで共有しないと現場がバラバラになる
フレーミングは個人技に任せるとバラつきが出ます。薬局でも、スタッフごとに案内の仕方が違うと患者さんが混乱。そこで週1回のミーティングで「今週の伝え方」を共有するようにしたところ、待ち時間のクレームが目に見えて減りました。チーム全体でフレームをそろえることが、信頼の維持につながります。
まとめと次のアクション
今日から実践するためのチェックリスト
- 相手に求める行動をまず明確にする。
- 損失ではなく得られるメリットを中心に表現する。
- リスクは対処策とセットで共有する。
- 言い換えフレーズをストックしておく。
- チームで共有して表現の温度差をなくす。
最後に、日々のふとした場面でフレームを意識するコツを紹介します。私はレジで「ポイントは失効しますよ」と言われたら、「使えば◯円お得なんですね」と言い換えて返事をします。相手も「あ、そう言えば良かった」と笑ってくれる。この小さな相互作用が、職場全体の言葉選びを柔らかくしていくのです。薬局のカウンターでも、営業の商談でも、家庭の食卓でも。枠組みを変えるだけで、人の心はぐっと軽くなります。あなたの一言が、誰かの不安を安心に変えるスイッチになることを忘れないでください。
そして、フレーミングは一度身につけたら終わりではなく、状況に合わせて進化させる必要があります。季節や社会情勢、相手のライフステージによって響く言葉は変わるもの。私は月に一度、自分のメモを読み返し、「最近の患者さんは何に敏感か」「どんな言葉なら肩の力が抜けたか」を振り返ります。こうした定期メンテナンスこそが、言葉の鮮度を保つ秘訣です。
薬局のカウンターでも、営業の現場でも、言葉の枠を整えるだけで相手の心は驚くほど動きます。フレーミング効果は魔法でも小手先でもなく、相手を安心させるための気遣いです。まずは今日の会議や説明で、ひと言の枠組みを変えてみてください。その瞬間、相手の目の色が変わるのを、私Ryoが保証します。

