毎日40人・年間1万人以上と会話しているRyoです。薬局での対話は一発勝負の連続。言ったそばから意味がすり替わり、気づけば相手の表情が曇る。そんなヒヤッとする瞬間を救ってくれた概念が「相互行為的調整」です。会話がずれたとき、双方が無意識に修正する動きのこと。今日はその仕組みを言葉にして、現場で再現できるようにまとめます。クレームも患者教育も営業交渉も、この調整力さえ磨けば驚くほど滑らかになります。
相互行為的調整とは何か
定義と背景
社会言語学者のゴフマンや会話分析の研究者たちが注目した「相互行為的調整」。会話の参加者が、お互いの理解がズレたと感じた瞬間に、言い換え、間、ジェスチャーなどを使って整える動きの総称です。例えば、患者さんが「これって強い薬ですか?」と心配そうに聞いてきたとき、僕が「強いというより、作用が早く出る薬です」と説明を修正する。それだけで、相手は安心し、会話が続きます。この小さな調整が積み重なることで、信頼が生まれるのです。
現場ではどんな形で現れるのか
実際の現場では、3種類の調整が目立ちます。1つ目が「言語的調整」。言い換えや追加説明で言葉の意味を合わせるもの。2つ目が「非言語的調整」。うなずき、姿勢、距離感などを使って空気を整えるもの。3つ目が「行動的調整」。資料を取り出す、紙に書く、時間を置くなど、行動でズレを埋めるものです。これらを意識的に使い分けられるようになると、会話の主導権を優しく握れるようになります。
読者の悩み: 説明したのに理解されない
薬局で多発する「説明したのにわかってもらえない」事件
僕が新人だったころ、患者さんに抗生剤の飲み方を説明したあとで「結局いつ飲むの?」と聞き返され、内心真っ青になりました。後で振り返ると、患者さんは「食後すぐ」をイメージしていたのに、僕は「食後30分以内」を想定していた。このズレに気づかず話を進めた結果、相手は不安を抱えたまま帰宅するところでした。こうしたすれ違いは、日常的に起こっています。
営業でも同じ落とし穴
医療機器の共同営業でも同じ。導入スケジュールを確認していたら、先方は「来期の予算確定後」、こちらは「今期末まで」とイメージしていた。何とかすり合わせましたが、ヒヤヒヤの交渉でした。相互行為的調整がうまく機能しないと、会話が破綻する危険が高まります。
原因解説: ズレが生まれる3つのポイント
1. 認知のズレ
同じ言葉でも、受け手の認知が違えば意味は変わります。「副作用が出るかもしれません」という言葉が、「怖い」「よくある」といった感情へ変換されることもある。相互行為的調整は、この認知の違いを埋める作業です。
2. 期待のズレ
相手は何をゴールに会話をしているのか。患者さんが「安心したい」と思っていても、こちらが「情報を伝える」ことに集中していれば、すれ違います。期待を確認し合うことが調整の第一歩です。
3. ペースのズレ
会話のスピードが合わないだけで、内容が入ってこないこともあります。説明を急ぎすぎたり、逆に間が空きすぎたりすると、相手は置いていかれたと感じます。ペースを合わせるのも立派な調整です。
解決手順: 相互行為的調整の実践フレーム
ステップ1: ズレの兆候を察知する
表情が固まる、視線が泳ぐ、返事が「はい」だけになる。こうしたサインが出たら、ズレが生じた証拠。僕は「おや、同じイメージが描けていないかも」と心の中でアラートを鳴らします。
ステップ2: 小さな問いで確認する
「今の説明でわかりづらいところはありますか?」「どんなところが不安ですか?」と、負担の少ない問いを投げます。相手が本音を言いやすい雰囲気を作るのがコツです。
ステップ3: 言い換え・補助情報を提示
相手の言葉を繰り返しながら、言い換えや例え話を追加します。「この薬はカゼ薬でいうところの即効タイプです」といった比喩は、理解の橋渡しになります。必要なら、図やチェックリストを使います。
ステップ4: 反応を見ながら調整を重ねる
調整は一回で終わりません。「これでイメージつきましたか?」と再確認し、表情や声のトーンを読みながら微調整。焦らず丁寧に重ねるのがポイントです。
ステップ5: 合意形成で締める
最後に「では、この飲み方でいきましょう」「来週までにここを準備しますね」と合意の言葉で締める。これで、双方が同じイメージを持った状態で会話を終えられます。
実践例: 調整が生んだ成功体験
ケース1: 高齢患者さんとの服薬指導
飲み薬が7種類ある高齢の患者さん。説明が進むほど表情が硬くなり、返事が小さくなっていく。僕は「一つずつ確認していきましょうか」と提案し、薬ごとにタイミングを書いた表を手渡しました。さらに「朝食後とは、ご飯を食べ終わって30分以内とお考えください」と言い換え。すると「それならできそう」と笑顔に。調整を重ねた結果、飲み忘れも減りました。
ケース2: 医師との情報共有
外来の混雑でバタバタしていた医師に、副作用情報を伝えたときのこと。医師は「後でカルテで確認するから」と言いましたが、僕は不安で「今お伝えしたい」と感じていました。そこで「今は診察の流れを止めないことが大事ですよね。僕の方でポイントだけ紙にまとめてお持ちしますので、診察が落ち着いたら確認いただけますか?」と提案。医師は「助かる」と受け取り、診察終了後に確認してくれました。相互行為的調整によって、双方のペースを守れた例です。
ケース3: 営業の価格交渉
病院の購買担当と価格の話をしていたとき、担当者が急に黙り込んだことがありました。僕は「今の条件だとまだ不安が残りますか?」と問い、担当者が求めているコスト削減幅を言葉にしてもらいました。その上で、段階的な導入プランを提案。担当者が納得できるペースで話を進められ、契約に結び付きました。
注意点: 調整を邪魔する落とし穴
過剰な自己弁護
ズレが生じたとき、自分の説明不足を認めたくなくて言い訳をしてしまうと、調整が止まります。「今の説明だと伝わりにくかったですね」と素直に言える勇気が信頼を生みます。
相手の反応を読み違える
うなずいていても理解しているとは限りません。僕は「うなずきは進行許可のサイン、理解の証明ではない」と自分に言い聞かせています。確認の質問を挟むことで読み違いを防ぎましょう。
調整を焦りすぎる
「早く終わらせなきゃ」と焦ると、調整が雑になります。深呼吸して、相手のペースに合わせる余裕を持つことが大切です。
深掘り: 調整スキルを鍛えるトレーニング
リフレクティブ・リスニング練習
1日の終わりに、印象に残った会話を録音やメモで振り返り、相手の言葉をそのまま書き出す練習をしています。相手の表現を忠実に再現することで、ズレが生じたポイントが浮き彫りになります。
影響を受けたフレーズをコレクション
患者さんや同僚が安心した瞬間に使っていた言い回しを集めた「調整フレーズ帳」を作ると便利です。例えば「それならこうしてみるのはどうでしょう」「今の説明でイメージが違っていたら教えてください」など。実戦で即使える武器になります。
目線の高さをそろえる
カウンター越しの会話では、立ったまま話すと圧迫感が出ることがあります。僕は椅子に腰掛け、目線を合わせてから説明するようにしています。この非言語的調整だけで、相手の反応が柔らかくなります。
読者の質問に回答
Q1: 忙しいときに調整する余裕がない
時間がないときこそ「言い換えカード」を使いましょう。よくある質問と回答を短くまとめておき、必要なときにすぐ提示できるようにする。僕はポケットサイズのメモに、薬の飲み方の代替表現を書いて持ち歩いています。
Q2: オンラインで表情が読みづらい
オンライン会議では、音声だけに頼らずチャットや共有資料で補完します。「今の説明を図でまとめました」とチャットに送ると、視覚的な調整が可能になります。反応が乏しいときは「ここまでで質問はありますか?」と積極的に働きかけましょう。
Q3: 部下指導にも使える?
もちろんです。部下が指示を理解していないと感じたら、「今どういう手順で進めようとしている?」と聞き、認識のズレを確認します。相互行為的調整は、教育やマネジメントにも効きます。
エピソード: 夜勤明けの患者さんを救った調整
夜勤明けでふらふらの看護師さんが薬局に来たときのこと。説明を聞きながらも半分眠そうで、返事も曖昧。僕は「眠い中ありがとうございます。今日は大事なポイントを三つに絞りますね」と宣言し、ホワイトボードに簡単な図を描いて手渡しました。さらに「今の説明で違和感があったら遠慮なく言ってください」と伝えると、彼女は「助かります」と笑顔に。後日、「あの図があったおかげで乗り切れた」と感謝の言葉をもらいました。調整の力が人を救う瞬間です。
まとめ: 相互行為的調整で会話をアップデート
相互行為的調整は、会話のズレを感知し、言葉と非言語の両面から整えていく技術。目的は「同じ景色を見ること」です。サインを察知し、小さな問いをはさみ、言い換えや資料で補完する。この一連の流れを習慣にすれば、クレームは減り、信頼が積み上がります。薬局で鍛えられた調整力は、どんな現場でも通用します。明日から「ズレのサインを見逃さないぞ」と意識して会話に臨んでみてください。きっと相手の表情が優しく変わります。

