会話の修復機構とは?聞き間違い・言い間違いを直すプロセス
毎日40人・年間1万人以上と会話しているRyoです。患者さんとの対話で一番ヒヤッとする瞬間は、聞き間違いや言い間違いに気づいたとき。そこで焦らず立て直せるのが「会話の修復機構」です。現場で磨き続けたプロセスを丸ごと共有します。
会話の修復機構とは何か
日常会話を安全に保つ自己修正システム
修復機構とは、会話の流れで生じたズレや誤解を、その場で修正する仕組みのこと。話し手・聞き手のどちらもが気づいた人から動き、会話を安全に元へ戻します。薬局では患者さんの健康に直結する情報が飛び交うので、この修復機構が機能するかどうかで結果が大きく変わります。
放置するとなぜ危険なのか
数年前、私が患者さんの「1日2回」を「1日1回」と聞き間違えたまま調剤しそうになったことがあります。幸い監査で気づきましたが、もしそのまま渡していたら大問題。修復機構を意識していれば、違和感を覚えた瞬間に立ち止まり、確認を挟むことができます。
修復機構の4ステップ
ステップ1: ズレを察知するアンテナを立てる
相手の言葉がいつもと違うイントネーションだったり、表情が曇ったりしたらズレのサイン。患者さんが「ん?」と眉をひそめた瞬間を見逃さず、「すみません、今のところもう一度伺ってもいいですか?」と切り返す準備をします。
ステップ2: 気づいた方が素早く止める
修復機構では、話し手・聞き手どちらでもおかしいと思った人が会話を止める責任があります。私は「ちょっと確認させてください」「言い直しますね」と宣言するのがルール。相手にも「修正する時間」を共有することで安心感が生まれます。
ステップ3: 原因を明らかにして正確な情報に置き換える
聞き間違いなら復唱して確かめ、言い間違いなら「正しくは〇〇です」と明言。私は必ず、「つまり、朝食前と夕食後に1錠ずつですね?」と確認してから次に進みます。ここで曖昧にすると再びズレます。
ステップ4: 修正後の理解を共有して前へ進む
「確認できました。ではこのスケジュールで一緒に進めましょう」と締めることで、両者の理解が揃った状態を再構築。これができると、会話の流れもスムーズに戻ります。
修復機構を阻む3つの壁
壁1: 恥ずかしさやプライド
間違いを認めるのは誰だって嫌なもの。私も新人のころは言い間違いを指摘されると赤面しました。でも、患者さんは正しい情報を望んでいるだけ。恥ずかしさより安全を優先するマインドセットが重要です。
壁2: 時間的な焦り
混雑時は「今止めたら後が詰まる」と焦ってしまいます。しかし、修復せずに進むと後で倍の時間がかかることを何度も痛感しました。一度立ち止まって確認した方が結果的に早いです。
壁3: 誰が修正するか決まっていない
チーム内で「気づいた人が止める」と合意がなければ、みんなが様子見してしまいます。薬局では「違和感を覚えたら、必ず声を出して確認する」というルールをスタッフ全員で共有しています。
修復機構を強化するテクニック
復唱・要約で音声情報を視覚化
私は重要な指示を受けたとき、必ず「つまり〇〇でよろしいですか?」と復唱します。聞き間違いがあってもこの段階で炙り出せる。患者さんからも「ちゃんと理解してくれている」と安心されます。
メモを共有して誤差を減らす
対話の最中にメモをとり、相手にも見えるようにするだけでズレが減ります。先日、複数の薬を一気に変更する患者さんに対応したとき、ホワイトボードに時間帯ごとのスケジュールを書き込みながら確認しました。視覚的に共有すると、修復が早いです。
あいづちで感情もケアする
修復の場面では、相手の感情も揺れています。「ご不安にさせてしまいすみません」「教えてくださって助かりました」と一言添えることで、関係性のダメージを防げます。
実際のケーススタディ
ケース1: 発音が似た薬名の聞き間違い
花粉症の患者さんが「クラリチン」と「クラリチンレディタブ」を言い分けずに話していた場面。私は一瞬迷いましたが、「錠剤の形状を確認させてください。口の中で溶けるタイプでしょうか?」と質問。相手が「そう、それです」と答えたことで、正しい薬にたどり着けました。
ケース2: 多職種カンファレンスでの言い間違い
在宅チームの会議で、医師が「週3回」と言うべきところを「週2回」と言い間違えました。私はすぐに「念のため確認ですが、訪問頻度は週3回でしたよね?」と復唱。医師も「あ、すみません、週3回です」と即修正。会議が止まる時間は数秒で済みました。
ケース3: 高齢者とのコミュニケーション
耳が遠い方との会話では、こちらが聞き返すより先に相手が「なんて?」と尋ねてくることが多いです。そのときは、「今、朝と昼に飲むとおっしゃいましたか?」と私から確認し直すようにしています。こちらが主導して修復すると、相手も安心して質問できます。
チームで修復機構を回すための仕組みづくり
ハンドサインで確認を共有
忙しい窓口では声を出しづらいことも。そこでスタッフ間で「指でT字を作ったら一時停止」「耳に手を当てたら聞き取り不良」のサインを決めました。視覚的に意思疎通できるので、すぐ会話を止めて確認に入れます。
修復ログを残して学びに変える
月に一度、ヒヤリ・ハットの共有会を開いて、修復が遅れた事例と成功事例をまとめています。原因を分析してルール化することで、チームの修復力が上がりました。
新人研修でロールプレイを導入
修復機構は体験しないと身につきません。新人には、わざと聞き間違いを混ぜたロールプレイを繰り返し、止め方・言い直し方を体感してもらっています。最初は戸惑っていた後輩も、1週間で「ここで止めます」と自然に言えるようになりました。
修復機構を支えるマインドセット
完璧を目指すより、修正できる体制を目指す
人は必ず間違えます。だからこそ「間違えたらすぐ直せる状態」を作ることが大事。私はミスを恐れるより、「早く気づけた自分えらい」と褒めるようにしています。この発想の転換で、修復のスピードがぐっと上がりました。
相手への敬意を忘れない
修正をお願いするとき、「何度もすみません」と頭を下げる姿勢を忘れません。相手も「こちらこそ」と優しく応じてくれるので、修復が敵対的になりません。
共有言語をつくる
「リペア」「再確認」「リフレーズ」など、チームで共通の言葉を持つと修復が楽になります。「今のリフレーズしてもいいですか?」と言えば、「あ、修正に入るんだな」と全員が理解できる。共通言語は修復機構の潤滑油です。
まとめ:ズレを恐れず、素早く整える習慣を
会話の修復機構は、聞き間違い・言い間違いを恐れず、素早く整えるための仕組みです。ズレを察知し、止め、正す。この流れをチーム全体で共有すれば、患者さんの安全も、職場の信頼も守れます。明日からは、「違和感を覚えたらすぐ声を出す」ことを合言葉に、会話の安全装置を磨いていきましょう。

