フェイスワークとは？会話で「面子」を守るための行動
毎日40人・年間1万人以上と会話しているRyoです。フェイスワークを意識し始めてから、患者さんの「ありがとう」が増えて、クレームも確実に減りました。面子を守るって一見難しそうですが、実は小さな行動の積み重ねなんです。
フェイスワークの基本を押さえる
フェイス＝人が守りたい「社会的な顔」
フェイスとは「人からこう見られたい」というイメージのこと。薬局なら、患者さんは「ちゃんと薬を管理できている人」と思われたいし、医師は「的確な判断をする専門家」と見られたい。誰でもこのフェイスを傷つけられると、瞬時に防御モードに入ります。フェイスワークは、相手のフェイスを守りながら会話を進める工夫全般を指します。
フェイスを守ると信頼が育つ理由
以前、私が新人のころ、患者さんの飲み忘れを指摘したら「そんな言い方しなくても…」と怒られたことがあります。こちらとしては事実を伝えただけでも、相手は面子を潰されたと感じたわけです。フェイスを守る言葉を添えれば、防御反応が減り、こちらの提案も受け入れてもらいやすくなります。
現場でよく見るフェイス損傷パターン
パターン1: 断定的な指摘で恥をかかせる
「飲み忘れてますよね？」「これ間違ってますよ」など断定的な物言いは、相手のフェイスを直撃します。代わりに「もし私の記録が合っていれば、○○の服用が少し空いているようです。何か事情がありましたか？」と質問形式にすることで、相手が自分のペースで説明できます。
パターン2: 公の場での注意
待合室で大声で注意すると、周囲の目線が痛い。私はどうしても注意が必要なときは、必ず個別スペースに移動してから話します。面子を保つ場を整えるのも立派なフェイスワークです。
パターン3: こちらの正しさを押し付ける
専門的な知識をひけらかして「だから言ったでしょ」と畳みかけると、相手は自分の判断力を否定されたと感じます。「私も最初は迷ったのですが、こういうデータがあるんです」と、一緒に考えた形にすると面子を守れます。
フェイスワークの3原則
1. 相手の視点を先に言語化する
フェイスを守る第一歩は、相手の立場を先に認めること。「お忙しい中で来局いただいてありがとうございます」「たくさんの薬を管理されていて本当に大変ですよね」と言った一言が、相手のフェイスを包み込みます。私は初対面の患者さんには必ず感謝や共感のフレーズを添えています。
2. 選択肢を提示してコントロール感を渡す
人は選ぶ自由があると面子を保ちやすいです。「A案とB案がありますが、どちらがやりやすそうですか？」と提示すると、相手は自分で決めたという手応えを得られます。血圧の薬を朝か夜かで飲み分けてもらうときも、私は「朝が慌ただしい場合は夜に回しても大丈夫です」と選択肢を渡しています。
3. 成功体験を一緒に確認する
面子は「できている自分」を確認すると強化されます。「先月から飲み忘れが減っていますね」「記録がとても見やすくなりました」と成果を一緒に喜ぶことで、相手の自尊心もアップ。次のステップにも前向きになってくれます。
フェイスワーク実践プロセス
ステップ1: 会話の前に相手の価値観を推測する
患者さんの職業や生活スタイルから、守りたいフェイスを想像します。営業職なら「約束を守る人」というフェイスを大事にしているかもしれない。高齢の方なら「家族に心配をかけたくない」というフェイスがあるかもしれない。この推測がズレると、フェイスワークも空回りします。
ステップ2: フェイスを支える言葉を先手で投げる
会話の冒頭でフェイスを支える言葉を投げると、相手は安心して心を開きます。「いつも丁寧に薬のメモをありがとうございます」「自己管理が徹底されていますね」と具体的に褒めることで、こちらの信頼度も一気に上がります。
ステップ3: 課題指摘は「共通の敵」に向ける
飲み忘れの原因を責めるのではなく、「この薬、容器が固くて開けにくいですよね」「季節の変わり目で体調がぶれやすいですよね」と環境要因に視点を移します。一緒に問題と向き合う雰囲気が、相手の面子を守ります。
ステップ4: ゴールを共に描く
「次回までに一緒に確認したいことは〇〇です」と共有すると、相手は「自分の目標」として捉えられます。フェイスワークは、相手の未来像を尊重するところまで含まれると考えてください。
現場エピソードから学ぶフェイスワーク
ケース1: 初めての在宅訪問
在宅患者さんの家に初めて伺ったとき、家族が緊張でピリピリしていました。私は玄関で「お忙しい中、受け入れてくださってありがとうございます。普段のやり方を教えていただければ、こちらで合わせます」と伝えました。相手のペースに合わせる姿勢が伝わったのか、訪問の終盤には家族から悩みを打ち明けてもらえました。
ケース2: 飲み忘れ常習の高校生
部活で忙しい高校生は薬を飲み忘れがち。面子としては「自立した大人として扱われたい」という気持ちが強いです。私は「部活も勉強も自分で管理できていてすごいね。もし良かったら、スマホのリマインダーを使う方法を一緒に考えない？」と提案。上から目線でなく、対等な相談に変えることで、本人が自ら改善策を出してくれました。
ケース3: 医師への疑義照会
医師に処方変更をお願いするときは、相手の専門性を立てることを徹底しています。「先生のご判断を尊重しつつ、患者さんがこうおっしゃっていまして…」と前置きするだけで、協力的な回答がもらえる確率がぐっと上がりました。
チームでフェイスワークを共有する方法
朝ミーティングで成功事例をシェア
スタッフ間で「こんな言葉が患者さんに響いた」という事例を共有すると、フェイスワークの引き出しが増えます。私は週1回の朝礼で、前週の成功＆失敗エピソードを5分だけ話す時間を設けています。
ロールプレイで言い回しを磨く
言葉を頭で理解しても、口からスムーズに出なければ意味がありません。昼休みに5分だけロールプレイを行い、患者役・薬剤師役を交代しながら練習します。フェイスを守る言い回しを体に覚えさせるのが狙いです。
チェックリストでセルフ評価
フェイスワークを定着させるために、「相手の立場を認めたか」「選択肢を提示したか」「成果を一緒に喜べたか」というチェックリストを作っています。業務終了後に振り返ることで、改善点が明確になります。
フェイスワークを強化するメンタルセット
相手を尊敬する気持ちを忘れない
面子を守るには、まず相手への敬意が必要です。忙しいとつい「また同じ質問か」と苛立ちますが、「それだけ不安が大きいんだ」と思い直すだけで態度が変わります。敬意が言葉にもにじみます。
自分のフェイスも大切にする
こちらが疲弊していると、フェイスワークを続ける余裕がなくなります。私はミスをしても「次に活かせばいい」と自分を責めすぎないよう意識しています。セルフコンパッションがあると、他者の面子にも敏感になれます。
小さな成功を積み上げる
フェイスワークは一気に習得できません。今日一人でも「この人と話すと安心する」と言ってもらえたら合格。小さな達成感を積むことで、明日も丁寧に向き合おうと思えるんです。
まとめ：面子を守る会話が信頼の土台になる
フェイスワークは、相手のプライドや自尊心を尊重する一連の行動です。言葉選び、場づくり、共感のタイミング…そのどれか一つでも意識するだけで、会話の空気は驚くほど変わります。薬局という生活に密着した現場だからこそ、フェイスを守る姿勢が信頼を形づくる。明日からの会話で、まずは相手の視点を一言認めるところから始めてみませんか？
