毎日40人・年間1万人以上と会話しているRyoです。薬局カウンターで患者さんの言葉を聞いていると、単なる愚痴の奥に社会の空気がにじんでいる瞬間に出会います。今日は、その空気を読み解くための視点=言説分析を、現場でどう活かすか語っていきます。
「言葉の裏に何がある?」という違和感
同じ言葉でも背景が違う
「忙しくて通院できない」というフレーズ、一見ただの言い訳。でもヒアリングしていくと、職場の人手不足や家族ケアの問題が隠れていたりします。言説分析はその背景を探る手がかり。言葉の使われ方を丁寧に観察するだけで、社会構造が透けて見えてくるんです。
使い古されたフレーズに潜む本音
コロナ禍以降、「自己責任だから」という言葉を頻繁に耳にします。これ、患者さんが社会的サポートを諦めているサインでもある。こうしたフレーズを聞き流すか、掘り下げるかで支援の質が大きく変わります。
言説分析の基本ステップ
1. キーワードを記録する
まずは会話中に出てきた特徴的な言葉をメモ。僕は電子カルテのコメント欄に「自己責任」「会社が許さない」といったキーワードを書き出しています。後で見返すと、患者さん同士で似た言葉が繰り返されていることに気づける。
2. 文脈を補足する
言葉単体では意味がぼやけるので、どんな状況で出たか、声のトーンはどうかも記録。例えば「忙しい」は、笑いながら言うのか、眉間にシワを寄せて言うのかでニュアンスが違う。言説分析は文脈が命です。
3. 社会的背景と照らす
ニュースや統計データと照らし合わせると、個人の発言が社会的傾向の一部として見えてくる。最近では介護離職の記事を読んでいたおかげで、「母の介護で病院に行けない」という患者さんの言葉がより深く理解できました。
薬局現場での言説分析ケース
ケース1: 「若者は根性がない」
70代男性患者さんが口にしたこの言葉。詳しく聞くと、会社での人手不足と新人育成の困難さに直面していた。背景には長時間労働と低賃金という構造問題があり、本人も疲弊していたんです。そこで僕は健康指導だけでなく、地域包括支援センターの資料を渡し、職場との調整を提案。言葉の奥に潜む社会問題を拾った結果、医療以外の支援につながった。
ケース2: 「病院はビジネスだから信用できない」
30代女性がSNSで見た情報を根拠に不信感を抱いていた。言説分析的に見ると、医療機関への信頼低下という社会トレンドと、個人の不安が混ざっている。ここで僕は医療費の仕組みや診療報酬の話をかみ砕きつつ、地域の無料相談窓口を紹介。言葉に含まれる不信のエネルギーを、具体的なリテラシー教育に転換できた瞬間でした。
ケース3: 「自己責任だから倒れても仕方ない」
40代介護職の女性が吐き出した言葉。実は職場で休みを取りづらい雰囲気があり、誰も助けを求められない状況だった。ここで言説分析は、個人の問題として片付けず、組織文化の課題として捉える視点をくれます。地域の労働相談窓口を案内したら、「こんな話ができる場所があったんですね」と涙ぐまれました。
言説分析で見えてくる社会の力学
権力と規範の再生産
言葉は権力を再生産する装置でもあります。「患者のくせに」という表現に出会ったとき、医療者側の無意識な上下関係が露わになります。僕自身も疲れているときに口調が尖ってしまったことがあり、振り返りシートで反省。言説分析は自分の態度を見直す鏡でもあります。
メディアの影響
テレビやSNSで流行した言葉は、あっという間に会話に入り込む。「自己防衛おじさん」「タイパ」などの造語が患者さんの口から出てくると、その情報源を探る癖がついた。メディアがどんな社会観をばらまいているかを押さえることで、カウンターでの対応が的確になるんです。
マイノリティの声
少数派の患者さんが使う言葉には、日常的に見過ごされがちな課題が詰まっています。聴覚障害のある方が「みんなマスクで口元が読めない」と訴えたことをきっかけに、筆談ツールを導入。言説分析は、声になりにくい声を拾う技術でもある。
分析を接客の改善につなげる方法
言葉のマッピング
似た言葉をグループ化し、背景課題を可視化する。僕はホワイトボードに付箋を貼って「仕事由来」「家庭由来」「制度由来」と分類。これを見ると、どの課題にリソースを割くべきか判断しやすくなる。
チームでの共有会
週1回、スタッフ全員で「今週気になった言葉」を持ち寄るミーティングを実施。「忙しい」の裏にある長時間労働問題、「うちの子は発達が遅いらしい」という不安の裏にある情報不足など、個別対応のヒントが大量に集まる。面倒でも続ける価値ありです。
対応マニュアルのアップデート
集めた言説を元に、FAQや説明文を更新。例えば「副作用が怖い」という声が多ければ、副作用説明カードを柔らかい言葉に書き換える。言説分析は机上の研究で終わらせず、現場改善に直結させるのがポイント。
言説分析で気をつけたい落とし穴
解釈を押し付けない
分析する側のバイアスが強すぎると、相手の本音をねじ曲げてしまう。「あなたは疲れてるんでしょ?」と決めつけるのではなく、「そう聞こえたけど実際どうですか?」と確認する。言説分析は対話とセットで行うべし。
個人情報の扱い
言葉の記録にはプライバシーが絡む。匿名化やデータ管理ルールを整備しないと、分析どころかトラブルの元になります。僕の店舗では、共有ノートを毎月シュレッダーにかける運用にしています。
社会構造だけに責任を押しつけない
背景を読み解くのは大事だけど、「社会が悪い」で終わると個人の行動変容が止まる。問題の大きさを伝えつつ、今日からできる小さな一歩もセットで提示することが大切です。
実践トレーニングで感度を上げる
ニュースを批判的に読む
日々のニュースを「誰が」「どの立場から」話しているか意識する。薬価改定の記事を読みながら、「患者」「製薬会社」「行政」の言葉遣いを比較すると、見えてくる利害が全然違う。これが現場での質問力を高めてくれます。
会話を書き起こして分析
一日の終わりに印象的だった会話を文字に起こし、キーワードや語尾をチェック。「〜かもしれない」と多用する患者さんには不安が強い、「絶対に」と言う人はコントロール願望が強いなど、口癖に性格が出ます。めんどいけど、続けると耳が研ぎ澄まされる。
フィールドワークをしてみる
休日に地域イベントへ出かけ、そこで交わされる言葉を観察。マルシェで「地産地消」が連呼されていたら、地域経済への関心が高まっているサイン。こうした現場体験が、薬局での対話に厚みをもたらします。
言説分析×薬局の未来
データベース化への挑戦
ゆくゆくは地域の言説をデータベース化し、行政や医療機関と共有したい。AIを使えば、頻出フレーズを自動抽出して地域課題を可視化できる。僕ら現場の人間がデータを集めることで、政策提言にも一枚噛めるかもしれません。
患者との共創
言説分析の結果を患者さんと共有し、「こんな傾向が出ていますがどう思います?」と一緒に考える。患者さん側も、自分の言葉が社会を変える一歩になると知れば、対話がもっと主体的になるはず。
自分の語りを磨く
分析対象は他人だけじゃない。自分がどんな言葉を使っているかもチェック。疲れると「しょうがない」が口癖になる僕は、そこから諦めムードが患者さんへ伝染してしまう。言説分析は自己メンテナンスのツールでもあります。
まとめ: 言葉のアンテナを今日から立てよう
小さな違和感を大事にする
「なんか引っかかる」という瞬間こそ、言説分析のスタート地点。違和感メモを残し、後で振り返るだけで気づきが増える。忙しい現場だからこそ、違和感を握り潰さずに拾っていきましょう。
社会を見る視点を仲間と共有
一人で抱え込むとしんどいので、スタッフ同士で視点を交換する。チームでアンテナを張れば、患者さんの困りごとを早めに察知できる。言葉を丁寧に扱う現場は、信頼度も自然と上がります。さあ、今日もカウンターの言葉に耳を澄ませていきましょう。
学び続けるためのリソース
読書とオンライン講座
時間がない人ほど短時間で学べるツールを活用しましょう。僕は通勤中にポッドキャスト「現代社会のことば学」を聞き、休憩中には論説文を要約したニュースレターを読む。まとまった時間が取れる週末には、大学の公開講座アーカイブを視聴して基礎理論を補強しています。体系的に学ぶほど、現場での違和感の捉え方がシャープになる実感があります。
ロールプレイ練習
スタッフ同士で架空の会話シナリオを作り、言葉の選び方と背景を分析する練習をしています。例えば「地域サロンに行きたくない」という高齢者役と、支援したい側に分かれて対話。終わったら使われたフレーズを一覧化し、「孤独感」「移動手段」「費用」など背景要素を洗い出す。練習を重ねることで、本番の現場で瞬時に背景を推測できるようになります。
失敗記録ノート
分析に失敗したケースも必ず記録。僕は「深読みし過ぎノート」と名付け、過剰に社会構造を語って相手を置いてけぼりにしたときの反省をまとめています。反省と再挑戦をセットにすることで、言説分析の精度が少しずつ高まる。めちゃ地道だけど、こういう積み上げが長期的には効いてきます。
未来の読者へ一言
言説分析は学者だけのものではありません。忙しい現場人だからこそ、言葉の選び方に敏感であるべき。今日の一言をメモするところから、社会を読み解く旅は始まります。面倒でも手を動かす、その習慣が現場の信頼と支援の質を底上げします。一緒に、言葉の奥にある本音と社会を読み解いていきましょう。
実務で役立つ分析テンプレート
1. 発言を抜き出す
患者さんの言葉を「引用符」で囲んでそのまま記載。歪めずに残すことで、後から読み返しても意味が変わらない。僕は「原文」「意訳」「感情」の三列に分けてExcelにまとめています。
2. 背景要因を書き出す
働き方、家庭環境、地域資源など、思いつく限り書き出す。仮説でもOK。欄外にはニュースや統計データのリンクを貼り、裏付け資料をすぐ参照できるようにする。
3. 支援アイデアを列挙
医療的支援・生活支援・情報提供の3カテゴリで最低2案ずつ。アイデアがすぐ出ない場合は、チームメイトに相談。複数の視点が集まるほど、次のアクションが具体化します。
フィールドノートの書き方
書き出し例
「2025/09/20 60代男性『通院より仕事優先しろと言われた』→背景: 建設業界の人員不足、台風被害の復旧で残業続き。対応: 夜間診療所の情報提供+オンライン診療の紹介」
具体的に書いておくと、後日同じ悩みを抱える患者さんが来たときに即座に参考にできる。フィールドノートは自分だけのデータベースです。
観察の視点
言葉だけでなく、沈黙やため息、笑い声なども記録。非言語の手がかりは、発言の真意を読み解くヒント。例えば「自己責任」と言いつつ肩を落としていたら、本音は助けを求めている可能性が高い。
言説分析を活かした提案事例
事例1: 介護と仕事の両立支援
「母が倒れたけど会社は休ませてくれない」と話す患者さんには、地域包括支援センターと産業保健師をつなげる提案を実施。結果的に介護休暇を取得でき、治療と介護を両立できた。言葉を分析したからこそ、制度支援の必要性に早く気づけたんです。
事例2: 情報格差へのアプローチ
「ネットの記事で薬は危険って見た」という声を受けて、スタッフ全員で信頼できる情報源リストを作成。薬剤師監修のサイトや行政資料をQRコードでまとめ、カウンターに掲示。以降、同様の不安が減少しました。
事例3: 子育て世代の孤立感に対応
「ママ友に相談できない」と話す母親には、地域子育てサロンとオンラインコミュニティを紹介。3か月後に「気軽に相談できる仲間ができた」と報告を受け、服薬アドヒアランスも向上。言葉の奥にある孤独感を察知できた成果です。
社外とのコラボレーション
行政との情報共有
自治体の担当者とミーティングし、「忙しい」「自己責任」といったフレーズが増えていることを共有。行政もその情報をもとに啓発チラシを改善し、地域全体の支援策がアップデートされました。
教育現場への還元
学校薬剤師の活動で言説分析の結果を紹介し、思春期の生徒が抱える言葉の背景を教師と共有。「だるい」「無理」といった言葉の裏に睡眠不足や家庭ストレスが潜んでいるとわかり、保健室対応が改善されたとの声をもらっています。
長期的な視点でのメリット
課題の早期発見
言葉の変化を追うことで、地域に広がる課題を早めに察知できる。例えば「転職したい」という声が急増したら、地域の雇用問題に注目する必要がある。早期発見は、支援策のスピード感につながります。
信頼関係の深化
相手の言葉を丁寧に扱う姿勢は、それだけで信頼を生みます。「ここは話を聞いてくれる」と感じてもらえれば、健康相談のハードルが下がる。結果として、薬局が地域コミュニティのハブになる。
自己成長
言説分析を続けると、ニュースや日常の会話の捉え方も変わる。社会を見る目が養われ、プロとしての視点が一段上がった感覚がある。地道だけど、長く続けるほどリターンが大きいです。
最後にもう一歩
言葉を分析する時間は正直手間。でも、その手間が患者さんの行動を変え、地域の支援網を強くする。今日の一言をノートに残すところから、言説分析の旅を始めてみませんか?僕もまだまだ修行中。一緒に耳と心を鍛えていきましょう。

