会話の多声性で聞き取る力

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毎日40人・年間1万人以上と会話しているRyoです。患者さんの一言の裏には、実は何人もの声が重なっているんですよね。最初は「聞き漏らしたかな?」と焦っていたけれど、今は多声性を拾うのがクセになりました。

目次

会話の多声性とは

一つの発話に複数の声が宿る

多声性とは、ひとつの発話の中に本人以外の視点や価値観が入り込んでいる状態を指します。例えば「娘に飲むよう言われたから薬を取りに来たんです」という言葉には、患者さん本人の声と娘さんの声が重なります。薬局カウンターで耳を澄ませると、家族の心配、医師の指示、過去の経験が同時に響いていることがよくあります。

多声性を聞き取る意義

多声性を意識できると、相手の背景が立体的に見えます。「本当は薬を減らしたい」「医師との関係が気になっている」など、言外のニーズも浮かび上がります。結果として提案の精度が上がり、相手の納得感も高まります。逆に多声性を見逃すと、会話が平面的になり、重要なサインを取りこぼしてしまう恐れがあります。

現場で感じる多声性の例

家族の声が重なる処方箋

ある患者さんが「妻が心配するので検査結果を早めに聞きたい」と話したとき、私は本人の不安以上に、妻の声が滲んでいると感じました。「奥さまはどんなことを心配されていますか?」と尋ねると、「認知症の父を介護していて、私まで倒れたら困るって」と話してくれました。この一言で生活背景が一気に見え、支援の方向性が定まりました。

医師の権威が響く場面

「先生が絶対に飲めと言うから」という言葉には、医師の声と患者さんの葛藤が同居します。私は「飲むのは大事ですけど、続けにくい理由はありますか?」と尋ねます。すると「胃がもたれる感じがして…」と本音が出てきます。医師の声を尊重しつつ、患者さんの声を取り戻すサポートが欠かせません。

読者の悩み

聞き分ける余裕がない

業務が立て込むと、相手の言葉を表面だけで受け取ってしまいがちです。「そんな悠長なことしてられない」と思う気持ち、よくわかります。私も新人の頃は、処方箋をさばくことに必死で、相手の声の多層性なんて考える余裕がありませんでした。

どこまで踏み込んでいいのか不安

多声性を感じても、どこまで質問していいか迷う人が多い。余計なお世話にならないか、関係性を壊さないかとビクビクします。適切な聞き方と距離感がわからなければ、せっかくの気づきも活かせません。

多声性を捉える基本手順

Step1: キーワードを繰り返す

相手の発話から特徴的な言葉を拾い、「娘さんが」「先生が」とオウム返しします。これにより、相手がその声を詳しく語るきっかけを作れます。私はカルテに小さく「娘」「先生」「職場」などとメモしておき、後で確認するようにしています。

Step2: 視点の数を把握する

発話に含まれる登場人物や価値観を書き出します。本人、家族、医療者、職場、過去の自分など、最低でも三視点は探るクセをつけましょう。慣れてくると、相手の表情や声のトーンの変化から、誰の声が強く出ているかが見えてきます。

Step3: 優先順位を確認する

複数の声がある場合、どれを重視しているのかを尋ねます。「今一番気になっているのはどれですか?」と聞くだけで、会話が整理されます。私はホワイトボードに簡単な相関図を描いて患者さんと共有し、視覚的にも多声性を一緒に整理することがあります。

会話設計のコツ

イントロで安全基地をつくる

多声性を掘り下げるには、安心して話せる雰囲気が必要です。「なんでも話してもらって大丈夫です。解決策を一緒に考えましょう」と先に伝え、評価されない場だと示しましょう。安心感があると、相手は心の中の声を引っ張り出してくれます。

ミラーリングを活用する

表情や姿勢をさりげなく合わせると、相手は無意識に「理解してもらえている」と感じます。私もイスの高さを合わせたり、相手と同じ速度で頷いたりしています。身体レベルの共鳴があると、多声性の聞き取りがスムーズになります。

沈黙を恐れない

多声性を引き出す質問を投げかけた後は、沈黙が訪れることがあります。そこですぐに埋めてしまうと、相手が内面と対話する時間を奪ってしまいます。「急ぎませんので、ゆっくりで大丈夫ですよ」と一言添え、待つ勇気を持ちましょう。

薬局での実践エピソード

新人研修での多声性ワーク

新人薬剤師の研修では、患者役と薬剤師役に分かれ、会話の中に潜む複数の声を探るワークを行っています。患者役が「上司にも心配されていて」と発話した瞬間、研修生は一斉にメモを取ります。「上司の声」「家族の声」「自分の声」と書き出し、それぞれのニーズを整理するんです。このワークを導入してから、研修生の質問力が格段に上がりました。

クローズドクエスチョンからの脱却

以前、私自身が「薬は飲めていますか?」と聞いて「はい」で終わってしまう会話に悩んでいました。そこで「職場の同僚から何か言われていませんか?」と、第三者の声に焦点を当てる質問に変えたんです。すると「実は同僚に『薬に頼りすぎじゃない?』と言われて迷っていて」と新しい情報が出てきました。多声性の観点を持つだけで、会話が一気に広がります。

多声性を活かす聞き取りスキル

チェックリストを活用

私は会話後に、以下のチェックリストで振り返ります。

  1. 本人以外の登場人物を最低2人以上把握したか
  2. それぞれの声のニーズを言語化できたか
  3. 具体的な次の行動を提案できたか
    このチェックが習慣になると、自然と多声性を意識した会話ができるようになります。

メタ認知トレーニング

自分がどの声に反応しやすいかを自覚することも重要です。私は「医師の声」に敏感で、ついそちらを優先しがち。そこで、カウンター裏に小さく「患者の声を最後まで聞く」と書いた付箋を貼っています。自分の癖を知ると、バランスよく会話を整えられます。

相手に翻訳して渡す

多声性を整理したら、「つまり娘さんの心配と、先生の指示と、ご自身の体調の三つがあるんですね」とまとめて返します。翻訳して渡すことで、相手自身も状況を客観的に理解でき、次の行動が決まりやすくなります。

多声性をチームで共有する

カンファレンスでの活用

医師、看護師、薬剤師が集まるカンファレンスでは、患者さんの多声性を共有資料にまとめます。「本人は仕事復帰を急ぎたい」「家族は安静を求めている」といった情報を視覚化すると、チームでの方針が揃いやすくなります。私の職場では、この取り組みで退院後のフォローがスムーズになりました。

情報共有ツールの工夫

電子薬歴に「声メモ」という欄を作り、誰がどんな声を拾ったのか記録しています。「祖母の介護を理由に通院をためらっている」と入力すれば、次に対応するスタッフも会話の背景を把握できます。多声性のデータベース化は、引き継ぎミスの防止にも効果的です。

組織文化としての定着

多声性を共有する文化が育つと、スタッフ同士が互いの視点を尊重しやすくなります。「その声、私は気づけなかった」と素直に言える環境は、学び合いを促進します。最初は面倒でも、会議の議題に「今日拾えた声」を追加するだけで徐々に根付いていきます。

多声性を伸ばすトレーニング

シャドーイングで耳を鍛える

録音した会話を聴きながら、相手の言葉を小声でなぞるシャドーイングを行います。ニュアンスやトーンの揺れに集中すると、「ここで家族の声が混ざったな」と気づけるようになります。私は閉店後に10分だけこの練習を続けています。

ロールプレイで声を増幅

スタッフ同士でロールプレイを行い、わざと多声性を増やした会話を作ります。「医師の声」「ネット情報の声」「昔の自分の声」を順番に織り交ぜ、聞き手がそれぞれを拾えるか試します。ゲーム感覚でできるので、研修でも盛り上がります。

日常会話で練習

家族や友人との会話でも多声性を探す練習ができます。「職場でこんなこと言われてさ」と話されたら、「その同僚はどういう意図で?」と第三者の声を掘り下げてみましょう。日常の積み重ねが現場の反応速度を上げます。

よくある失敗と対処法

声を決めつけてしまう

「家族の声だろう」と決めつけると、相手の新たな声を聞き逃します。仮説は持ちつつ、「他にも誰かの意見はありますか?」と確認するクセをつけましょう。自分のバイアスを疑い続けることが大切です。

情報過多で混乱させる

拾った声を全部伝えようとすると、相手が混乱します。優先度の高い二つか三つに絞り、「今回はここに集中しましょう」と整理するのがベターです。私はノートに星印をつけて、重要度を即座に判断できるようにしています。

感情のケアを忘れる

多声性を分析することに熱中すると、感情のケアを後回しにしてしまうことがあります。「たくさんの声に囲まれて大変ですよね」と共感を示し、心を受け止めてから提案に入るよう意識しましょう。

多声性を見抜く観察ポイント

声の震えや間に注目

発話の中で急に声が小さくなる、語尾が曖昧になる瞬間は、別の声が割り込んでいるサインです。例えば「大丈夫…だと思う」と語尾が濁るとき、私は「何か引っかかっていることがありますか?」と尋ねます。間の取り方にも注意が必要で、言葉が出てこない数秒に、家族や上司の声が頭の中で響いていることがあります。そこで焦らず待てるかどうかが勝負です。

手の動きや視線

人は別の声を引用するとき、無意識に視線を逸らすことがあります。天井や窓の外を見るのは、頭の中でその人の顔を思い浮かべているから。私は視線の動いた方向に合わせて身体を少し傾け、「そのとき誰の顔が浮かびました?」と優しく聞きます。手をぎゅっと握りしめる、服の裾を触るなどの動きも、葛藤の現れとして観察しています。

言葉遣いの変化

普段使わない専門用語が急に出てくるときは、医師やメディアの声をなぞっていることが多い。逆に幼い言葉遣いになったら、親や過去の自分の声が再現されているサインです。そのギャップをメモしておき、どの声を中心に整えていくか判断材料にします。

多声性を活かした提案づくり

声ごとに提案を準備

私は提案を考えるとき、登場する声ごとにメモを作ります。本人の声には身体感覚に寄り添うアドバイス、家族の声には安心材料、医師の声にはエビデンスを用意する、といった具合です。これを「声別提案シート」と呼び、カウンター下に忍ばせています。提案の引き出しが増えると、相手も納得しやすくなります。

未来の声を想像させる

今ある声だけでなく、「未来の自分は何と言うと思いますか?」と質問してみましょう。未来からの声を引き出すと、行動変容のモチベーションが高まります。患者さんに「半年後のあなたが今のあなたを見ると、何て声をかけそうですか?」と尋ねたら、「早く薬を飲んでおけって言いそう」と笑いながら答えてくれました。その瞬間に行動が決まりました。

声のバランスを可視化

私はノートに三角形を描き、頂点に主要な声を書き込みます。線の太さで強さを示すと、どこを調整すべきか一目瞭然です。患者さんと一緒に描くと、納得感がさらに高まります。ビジュアル化すると、話が抽象的になりすぎず、会話が進みやすくなります。

チーム連携での応用

他職種とのすり合わせ

在宅医療のケースでは、訪問看護師やケアマネと「どんな声を拾ったか」を共有します。看護師が「ご主人は経済的な声を強く出している」と報告すれば、私は薬の費用対効果の資料を準備します。ケアマネが「本人は自立したい声を出している」と言えば、自己管理をサポートするツールを紹介します。声の情報が揃うと、連携が滑らかになります。

振り返りミーティング

月末には多声性をテーマにした振り返りミーティングを開催しています。各スタッフが印象に残ったケースを持ち寄り、「どんな声があったか」「どう扱ったか」を共有。私はホワイトボードにポストイットを貼り、「本人」「家族」「医療者」「社会」の四象限で整理しています。これを続けた結果、スタッフの視点がぐっと広がり、新人もベテランの思考プロセスを学びやすくなりました。

読者が今日からできるトレーニング

15分の声観察メモ

1日の終わりに15分だけ時間を取り、その日に接した人の発話を書き出します。そこに含まれる声を矢印でつないでいくと、多声性の地図が出来上がります。私は色ペンを使い、本人の声は青、家族の声は緑、医療者の声は赤で表現。色分けがあると、バランスの偏りが一目でわかります。

通勤中の音声学習

ポッドキャストや講演を聞きながら、「今の発言には誰の声が潜んでいるか」を推理するゲームをしています。政治家の演説なら支持者や専門家の声、ビジネス系番組なら顧客や投資家の声が混じります。耳が慣れると、実務でも瞬時に声の正体を探れるようになります。

声のディクテーション

録音した会話を書き起こし、別の色で声の主を表記するディクテーションもおすすめです。私は週1回、5分程度の会話を文字に起こし、「娘」「医師」「本人」とタグを付けて保存しています。後から見返すと、自分がどの声を拾い損ねていたかが丸わかりです。

多声性がもたらす長期的な効果

誤解の予防

多声性に気づいていれば、「本当は薬を減らしたい声」があるとわかった時点で医師に連携できます。事前に相談すれば、患者さんが自己判断で中止するリスクを減らせます。早期の介入が、医療事故の予防にもつながります。

信頼関係の深化

相手の中にある複数の声を尊重すると、「この人は自分の背景を理解してくれる」と信頼が深まります。患者さんから「前に話した娘のこと覚えてくれてうれしい」と言われたときは、内心ガッツポーズでした。覚えているだけでなく、その声を支援につなげると、会話が双方にとって豊かな時間になります。

自己成長への波及

多声性を聞き取る力は、自分自身にも向きます。「忙しいから早く終わらせたい声」「患者さんを支えたい声」「休みたい声」が混じる中で、どの声を選択するか。自分の中の声を整えるセルフコーチングにもつながり、燃え尽きの予防になります。

ケーススタディ: 多声性の介入プロセス

ケース概要

60代男性のAさんは、糖尿病治療を続けるモチベーションが下がっていました。「妻がうるさいから仕方なく薬を取りに来ている」と語るAさんの声の中には、少なくとも三つの声がありました。①妻の健康管理の声、②医師の厳しい指示の声、③自分の趣味を楽しみたい声です。

介入手順

まず、「奥さまはどんな風に声をかけてくれますか?」と妻の声を深掘りしました。Aさんは「毎日食事を工夫してくれてる」と話し、感謝の気持ちが滲みました。次に医師の声について「先生の言葉で印象に残っていることは?」と尋ねると、「数値が悪化したら入院だぞ」との厳しい声が出てきました。最後に「ご自身の楽しみは何ですか?」と自分の声を取り戻す質問をすると、「釣りに行きたい」と語ってくれました。そこで、血糖コントロールと釣りを両立するスケジュールを一緒に設計しました。

成果

三つの声を整えたことで、Aさんは「自分のために薬を飲む」と言葉を変えました。釣り仲間にも治療のことを話せるようになり、家族との衝突も減少。三ヶ月後の検査では数値が改善し、医師からも「頑張りましたね」と声をかけられ、本人のモチベーションがさらに上がりました。

さらなる学びのヒント

おすすめ書籍と音源

多声性の感性を磨くために、私は会話分析の入門書とドキュメンタリー音声をセットで聴いています。専門書の理論だけでなく、実際の会話音声を聞くと、声の重なり方がリアルに体感できます。社内図書にリストを作り、「気になったら借りてOK」と共有スペースに掲示したところ、スタッフの間で勉強会が自然と生まれました。

フィードバックサイクル

多声性を活かした会話を録音し、信頼できる同僚に聞いてもらってフィードバックをもらう仕組みを作りました。「ここで家族の声を拾っていたのが良かった」「ここは本人の声を待ってもよかったかも」と具体的なコメントを集め、次の会話に活かしています。批評ではなく学び合いの場だと位置づけることで、安心して挑戦できます。

まとめ前のワンポイント

多声性を扱うとき、完璧を目指しすぎないことが大事です。全部の声を拾おうとすると疲れ果ててしまうので、まずは主要な三つの声にフォーカス。私も忙しい日は無理せず、「今日は本人と家族の声だけでも丁寧に」と決めています。できたことを自分で褒めるのも忘れないようにしています。

まとめ

最後に、私は多声性のメモを週報にまとめて管理者に共有しています。数がたまると、地域の傾向や患者さんの共通課題が見えてくるんです。例えば最近は「家族が情報に追いつけない」という声が増えていたので、家族向けの相談デーを急遽設定しました。こうした企画も、多声性を丁寧に拾っているからこそ生まれるんだと実感しています。
さらに多声性を意識することで、自分自身の苛立ちもコントロールしやすくなりました。「急いで業務を終えたい私の声」と「相手の背景を知りたい声」を言語化すると、どちらを選ぶか冷静に判断できるんです。忙しいときこそ、一呼吸置いて耳を澄ませる。これが現場を回す合言葉になっています。

多声性を意識すると、相手の発話が一気に立体化し、会話の質が劇的に高まります。登場人物を洗い出し、優先順位を確認し、チームで共有する。これらを習慣にすれば、忙しい現場でも本当に必要な支援を届けられます。私自身、まだまだ聞き逃しもありますが、耳を澄ませ続ける限り会話はもっと豊かになるはずです。面倒でも、ひとつひとつの声に敬意を払っていきましょう。

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この記事を書いた人

現役薬剤師として、人と向き合う仕事を続けてきました。
患者さんとの何気ない会話の中に、信頼や安心が生まれる瞬間がある――そんな「伝え方」の力に魅せられて、このブログをはじめました。

いまは医療の現場を離れ、**「伝える力」「聴く力」**をテーマに、日常や職場、家族の中で使えるコミュニケーションのヒントを発信しています。

心理学や会話術、言葉選びの工夫など、明日から使える内容を中心に。
読んだ人の人間関係が少しでもやわらかくなるような記事を目指しています。

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