立場取りで会話の役割を決める

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毎日40人・年間1万人以上と会話しているRyoです。ポジショニング理論という言葉を聞くと、「何それ難しそう」と眉間にシワが寄るかもしれません。でも現場の会話はいつもこの理論通りに動いていて、立場の取り方を少し変えるだけで雰囲気がガラリと変わるんです。薬局で患者さんと話すときも、部下と面談するときも、立場取りのスイッチングが上手な人は信頼を集めています。

目次

ポジショニング理論の基本をサクッと押さえる

誰が「語る権利」を持っているか

ポジショニング理論は社会心理学者ハーリーン・アーヴィングなどが整理した考えで、会話には「語っていい権利」「語るべき義務」「語られる対象」という三つの要素があり、これらの組み合わせで立場が決まると説明します。たとえば患者さんが不安を語る場面では、患者さんに語る権利があり、薬剤師には聴く義務がある。ここで薬剤師が急に説教モードになると、立場のズレが生じて会話が噛み合わなくなるんです。

立場は固定じゃなく動的に変わる

会話の途中で立場はどんどん入れ替わります。患者さんが相談した後には、こちらが解決策を提示する番になる。そのときは薬剤師が語る権利を一時的に引き取る。つまりポジショニング理論は、場面ごとに役割を選び直せるという考え方でもあります。私はこれを「会話の椅子をどこに置くか」イメージしていて、椅子を動かせば景色が変わるように立場を動かすと関係性の見え方も変わると感じています。

現場で実感した立場取りの重要性

体験談:怒りの矛先をそらせた瞬間

以前、処方の待ち時間が長くなり怒り心頭の患者さんがカウンターに詰め寄ってきたことがありました。最初は私に向かって「なんで遅いんだ!」と語る権利を主張していました。そこで私は、まず深くうなずきながら「お気持ちもっともです」と受け止め、自分の立場を「聴く義務がある人」に置き直しました。十分に怒りを吐き出してもらったあと、「ここからは私が状況を説明する番をいただけますか?」と丁寧に立場を交代。すると一気に声のトーンが落ち着き、「そういう事情なら仕方ないね」と納得して帰られたんです。立場を奪い合うのではなく、交代制にしたことが功を奏しました。

上司・部下の面談でも有効

管理薬剤師としてスタッフ面談をするとき、私は最初に「今日は○○さんの状況を聞かせてほしい」と伝えて、語る権利を相手に渡します。その後「では私から見ている課題をお話ししていいですか?」と権利を取り戻す。このループを丁寧に回すと、部下は防御的にならずに話してくれる。立場取りの順番が崩れると、「また評価されるだけだ」と身構えられてしまいます。

立場取りをデザインするステップ

ステップ1:会話の目的を言語化する

まず「この会話のゴールは何か?」を明確にします。薬局なら「副作用の不安を減らす」「服薬状況を把握する」など。目的が決まれば、どの立場が必要かが見えてくる。相談を深掘りしたいなら、相手が語る権利を持てるように質問を設計する必要があります。

ステップ2:役割の順番を計画する

目的が決まったら、会話の流れを「相手が話す→こちらが整理する→次の行動を決める」とシーンごとに分けます。私はメモ帳に「開始:聞き役」「中盤:提案役」「終盤:合意形成役」と書いて、頭の中でシミュレーションしてから話に入ります。これだけで立場の取り損ねが減り、会話が短時間でまとまるようになりました。

ステップ3:立場を示す言葉を準備する

立場は言葉で宣言すると伝わりやすい。例えば「今はしっかりお話を聞く時間にさせてください」「ここからは薬の効果をお伝えしますね」と一言添えるだけで、相手も心の準備ができます。言葉にしないと、勝手に役割が入れ替わったように感じられ、相手が混乱します。

会話中に立場をスムーズにチェンジするコツ

サインを合わせる

立場を変える前に、体の向きや表情をそっと変えるとスムーズです。私は説明モードに入るときは資料を相手の方に向け、声のトーンを少し上げます。逆に聞き役に戻りたいときは、ペンを置いて身体を前傾させる。こうした非言語のサインが、立場の切り替えを補助してくれます。

立場の根拠を共有する

「今から私の意見を言いますね」と伝えるときは、必ず根拠や背景もセットで話します。「薬剤師として副作用リスクを避けるためにお伝えします」と言えば、相手は「プロとしての立場なんだな」と納得しやすい。逆に根拠が弱いまま主張すると、ただの押し付けに見えてしまいます。

相手の立場を尊重して確認する

会話の途中で「ここまででご不安はないですか?」「追加で話したいことはありますか?」と確認を挟むと、相手の語る権利を守れます。薬局では、患者さんが最後に「あ、それと…」と話し出すことが多いので、クロージングの前に必ず確認します。これだけで情報の漏れが大きく減りました。

ありがちな立場のつまずきとリカバリー

つまずき1:専門家モードに入りっぱなし

忙しいとつい説明モードのまま突っ走ってしまい、相手の感情に気づくのが遅れることがあります。私は途中で「ここまでで気になるところはありますか?」とブレーキを入れる“タイムアウト宣言”を習慣化しています。これで一度立場をリセットし、聞き役に戻ることができます。

つまずき2:相手の沈黙を勝手に埋める

沈黙が怖くてこちらがしゃべり続けると、相手から語る権利を奪ってしまいます。以前、服薬管理に不安がある高齢者の方に延々と説明し続けたら、「結局何をすればいいんですか?」と逆に混乱させてしまったことがありました。それ以来、沈黙が来たら「今どんなお気持ちですか?」と一言添えて、相手の立場を再度オープンにしています。

つまずき3:第三者を勝手にポジショニングする

家族や医師の話をするときに「お医者さんはこう言ってましたよね」と決めつけてしまうと、本人にとって都合の悪い立場を押し付けることになります。「先生はこういう意図で話したと私は理解しましたが、○○さんはどう受け取りましたか?」と確認することで、相手自身に立場を選んでもらえます。

立場取りの感度を上げるトレーニング

会話ログを取って振り返る

私は一日の終わりに、印象的だった会話を3つノートに書き出し、「最初の立場」「途中で変えた立場」「結果」を記録しています。すると「同じパターンで立場を取り損ねているな」と気づける。例えば「怒りの人には最初に謝罪役を取る」と決めておくと、次回から迷わなくなります。

同僚とロールプレイ

店舗の閉店後、同僚とロールプレイをして、役割をあえて極端に変えてみる練習をしています。患者役に「説明ばかりで嫌だ」と言ってもらい、こちらが聞き役に戻るセリフを試す。言葉のバリエーションが増えると、本番でも素早く立場をチェンジできるようになります。

立場の違う人と会話する

医師、看護師、ケアマネさんなど異職種の人と定期的に情報交換すると、立場の見え方が広がります。相手の現場を理解すると、「今はこの立場を立てる番だ」と自然に判断できる。私は地域連携会議で学んだ言い回しを、患者さんとの会話にも応用しています。

立場取りがうまくいくと得られるメリット

信頼残高が増える

立場を丁寧に交換すると、「この人は私の話をちゃんと聞いてくれる」「必要なときに専門的な提案をくれる」と感じてもらえます。信頼残高が貯まると、多少の待ち時間やミスがあっても「いつも丁寧だから大丈夫」と受け止めてもらいやすくなります。

チーム内の情報共有が滑らかになる

スタッフ同士でも「今は私が説明するね」「次は○○さんから補足お願い」と立場を明確にすると、会話がスムーズです。以前、在宅対応の申し送りで役割を曖昧にしたら、誰も患者さんに電話できずに情報が宙に浮いてしまったことがありました。立場を決め直してからは、報連相が速くなりました。

患者さんが自分で選択できるようになる

立場取りがうまくいくと、患者さん自身が「私はこうしたい」と意思表示しやすくなります。こちらがあれもこれも決めるのではなく、選択肢を提示して相手に判断してもらう流れを意識すると、セルフマネジメントが育ちます。

未来のコミュニケーションに必要な視点

オンライン相談でも立場は見える

ビデオ通話の服薬指導でも、ポジショニングは大事です。私は画面越しでも最初に「今日はどんなことが気になっていますか?」と聞き、相手に語る権利を渡します。その後、資料を画面共有しながら説明モードに入る。対面と同じように立場を宣言すると、オンラインでも信頼感が保てます。

AIがサポートする時代の人の役割

AIが症状チェックを手伝う時代になっても、人が担うのは「共感して状況を引き出す立場」と「最終判断を支える立場」です。私はAIが提案した服薬スケジュールを患者さんと一緒に検討するとき、「AIの提案はこうですが、○○さんの生活リズムにはどこが合いそうですか?」と聞き、相手に最終決定の立場を渡すよう心がけています。

多職種連携での立場調整

在宅医療のカンファレンスでは、医師が指示役、看護師が観察役、薬剤師が提案役など立場が複層的に存在します。会議の冒頭で「今日は薬の副作用対応にフォーカスします」とテーマを宣言すると、全員が必要な立場に集中できる。立場が曖昧なまま議論すると、責任の所在がぼやけてしまうので要注意です。

立場取りを日常化するチェックリスト

1. 会話の入り口で立場を宣言したか

2. 相手の語る権利を奪っていないか

3. 立場の根拠を示したか

4. 途中で立場の確認を挟んだか

5. 次のアクションの立場を決めたか

私はシフトの終わりにこの5項目を振り返り、できなかった項目には改善アイデアを書き込んでいます。チェックを続けるだけで、立場取りの感度が徐々に上がっていきます。

まとめ:立場を動かせば会話は変わる

立場取り(ポジショニング理論)は、会話の中で誰がどの役割を担うかを柔軟にデザインするためのレンズです。語る権利と聴く義務を意識して交換し続ければ、相手との関係は驚くほど安定します。薬局でも家庭でも、立場をリセットする一言を用意しておくだけで、コミュニケーションの質は確実に上がります。明日の現場でも、「今この会話の椅子はどこにある?」と自分に問いながら、最適な立場を選び直してみてください。

ケーススタディ:立場取りのリアルな現場

ケース1:服薬アドヒアランスが低い患者さん

通院をサボりがちなBさんは、こちらが提案モードに入ると途端に黙り込みます。そこで私は「今日はBさんの生活リズムを教えていただく時間にさせてください」と宣言し、完全に聞き役の立場に切り替えました。すると「夜は家族の食事を整えるのに必死で薬を飲むのを忘れてしまう」と本音を話してくれたんです。その後「ではここからは私が一緒に飲み方を考える番をください」と立場を再び交代。結果としてアラーム付きのピルケースを提案し、翌月には飲み忘れが激減しました。

ケース2:医師からの指示が曖昧な処方

医師の意図が読み取りにくい処方箋を受け取ったときは、チーム内の立場取りが重要です。私はまず「医師の意図を確認する連絡役」を名乗り、情報が集まり次第「調剤に落とし込む設計役」を調剤担当に引き継ぎます。役割を明確にしたことで、誰もが自分の立場に専念でき、患者さんへの説明もブレなくなりました。

ケース3:家族が同席する服薬指導

高齢患者さんの娘さんが同席する場面では、娘さんがつい主導権を握りがちです。私は「まずはお母さまのお気持ちを伺ってもいいですか?」と声をかけ、患者さん自身に語る権利があることを示します。その後で「娘さんの視点もぜひ教えてください」と立場を分配。双方が安心して話せる流れを意識すると、家庭内のサポート体制まで整っていきます。

立場取りを鍛えるフレーズ集

  • 「今は聞き役に徹しますので、思っていることを自由に話してくださいね」
  • 「ここからは薬剤師としての見解をお伝えしてもよろしいでしょうか」
  • 「今の話をまとめると、○○という理解で合っていますか?」
  • 「次の行動を決める前に、他に確認しておきたいことはありますか?」
  • 「この部分は医師の立場で判断が必要なので、一緒に確認しましょう」

私はこれらのフレーズをメモ帳に貼っておき、咄嗟に立場を表現できるように練習しています。言葉が用意されていると、焦っているときでも落ち着いて立場を切り替えられます。

感情マネジメントと立場取りの関係

感情が立場を歪めることもある

疲れているときや焦っているときは、つい支配的な立場を取りがちです。私はイライラを感じたら、一度深呼吸をして「今の自分はどの椅子に座っている?」と自問します。感情をリセットすると、相手の立場を尊重する余裕が戻ってきます。

立場を切り替えるトリガーを決めておく

私はポケットに小さなビー玉を入れておき、聞き役に徹したいときはビー玉を握る、説明役に回るときはビー玉をポケットに戻す、というルールを作りました。身体的なトリガーを使うと、頭が混乱しているときでも立場の切り替えを思い出せます。同僚からも「Ryoさん、ビー玉持ってる日って落ち着いてるよね」と言われ、セルフマネジメントの効果を実感しています。

立場のずれをチームで共有する

面談やクレーム対応が終わった後には、必ず「どの場面で立場のずれが起きたか」をチームで振り返ります。第三者の視点で「今のタイミングで共感役に戻れていたらもっと早く解決できたかも」とフィードバックをもらえると、自分では気づかなかった立場のズレが浮かび上がるんです。

立場取りを測るKPIを決める

私は店舗で「立場の納得度アンケート」を導入しました。服薬指導後に「話を聞いてもらえた」「説明がわかりやすかった」「自分で決める余地があった」の3項目を5段階で回答してもらい、月ごとに集計しています。スコアが下がった項目があれば、どの立場が不足していたのかをチームで議論。数値化すると、立場取りの重要性が肌感覚だけでなくデータでも示せるようになりました。

未来へのアクションプラン

  1. 朝礼で「今日の立場スイッチング目標」を宣言する
  2. シフト終わりに立場チェックリストを必ず記入する
  3. 週に1回はロールプレイを実施し、新しいフレーズを試す
  4. 月末にアンケート結果を分析し、改善テーマを決定する
  5. 成功事例を社内チャットで共有して、立場取りの文化を広める

こうしたアクションを続けることで、ポジショニング理論が机上の知識ではなく職場の当たり前として根付きます。立場を意識して会話できる人が増えるほど、患者さんとの信頼関係も、チーム内の連携も強固になっていくと実感しています。

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この記事を書いた人

現役薬剤師として、人と向き合う仕事を続けてきました。
患者さんとの何気ない会話の中に、信頼や安心が生まれる瞬間がある――そんな「伝え方」の力に魅せられて、このブログをはじめました。

いまは医療の現場を離れ、**「伝える力」「聴く力」**をテーマに、日常や職場、家族の中で使えるコミュニケーションのヒントを発信しています。

心理学や会話術、言葉選びの工夫など、明日から使える内容を中心に。
読んだ人の人間関係が少しでもやわらかくなるような記事を目指しています。

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