毎日40人・年間1万人以上と会話しているRyoです。
現場で感じるのは、患者さんは努力を認められると行動が変わるということ。
今日は服薬アドヒアランスを「褒め言葉」で底上げする実践法をまとめます。
なぜ褒め言葉がアドヒアランスを動かすのか
褒め言葉は単なるお世辞ではなく、患者さんの「自己効力感」を刺激する小さな燃料です。薬を飲み続ける行動は習慣化が必要で、途中で挫折しやすいもの。ここに「続けられている自分はえらい」という感覚が入ると、内発的なやる気が維持されます。私は調剤カウンターで「この前より血圧メモが丁寧ですね」と一言添えるだけで、次回から記録の質がぐっと上がったケースを何度も見ました。
承認欲求と安全基地
患者さんは病気で自己評価が下がりがちです。褒め言葉は「あなたはできている」という承認であり、薬剤師が心理的な安全基地になるサイン。これが服薬継続のブレーキを外します。
褒め言葉を使う前に整える3つの準備
1. 観察ポイントを決めておく
漫然と褒めると薄っぺらく聞こえます。私は「服薬回数」「副作用メモ」「生活リズム」の3点を優先的にチェックし、具体的な変化を拾うようにしています。
2. 前回との比較を把握
カルテや薬歴に前回の様子を短くメモしておき、今回との違いを即座に口に出せるようにすると説得力が増します。
3. 患者さんの価値観に合わせる
仕事が忙しい人には「忙しい中でも時間を作ってくださって助かります」、家族を支えている人には「ご家族思いですね」と、相手が大事にしている軸に寄せます。
すぐ使える褒め言葉テンプレート
行動を褒める
- 「前回より飲み忘れが減っていますね。努力が伝わります」
- 「メモに気づいた症状を書いてくださっていて助かります」
工夫を褒める
- 「お薬カレンダーを活用されているんですね。とても分かりやすいです」
- 「水分を取るタイミングを決めているのは良い工夫ですね」
継続を褒める
- 「毎回欠かさず来局してくださってありがとうございます」
- 「長期間続けているのが数字に出ています。素晴らしいです」
具体的な会話シナリオ
初回説明時
- まず不安を受け止め、「慣れないと思いますが、できている部分を一緒に見つけますね」と宣言。
- 服薬の目的と効果が見えた瞬間を褒める準備をしておきます。
2回目以降
- 「前回お伝えした飲み忘れ防止のメモ、実践されましたか?」と確認し、実践していれば即時承認。実践がなければ理由を聞き、ハードルを下げる提案をします。
副作用が心配なとき
- 「気になる症状をしっかりメモしてくださっているので安全に調整できます。ありがたいです」と伝え、報告行動を強化します。
NGになりやすい褒め方
比較で圧をかける
「他の患者さんはできていますよ」は逆効果。本人の過去との比較で褒めるのが鉄則。
事実とズレた誉め言葉
飲み忘れが多いのに「完璧です」は信頼を損ないます。観察した事実に基づいた短い言葉を選びましょう。
ご褒美を条件にする
「飲めたら〇〇しましょう」は一時的には効いても、内発的動機づけを弱めます。「続けられている自分」を認識させる表現に留めます。
感情が乗るときの注意
過剰にテンションを上げない
嬉しくて声が大きくなると、相手によっては距離を感じます。私は少しトーンを落とし、ゆっくり目で「助かります」と言うよう心掛けています。
失敗を責めず事実を並べる
飲み忘れが続いても「忙しい中でここまでできています。次はどこを一緒に整えましょうか」と、褒めと課題をセットで提示します。
ケーススタディ:高血圧の70代男性
初回は「薬は嫌い」と警戒。私は飲めた日だけチェックするシンプル表を渡し、「記録できた日があるだけで十分すごいですよ」と強調。次回来局時、4日分だけ記入がありました。そこで「嫌な薬でも4日間続けられたのは意思の強さですね」と伝えたところ、翌月にはほぼ毎日記入。血圧も安定し、本人が「自分でもできるんだ」と自信を持った姿が印象的でした。
デジタルツールとの併用
服薬アプリやLINEリマインダーを提案するときも、「自分で続けられる仕組みを選ぶ姿勢が素晴らしい」と補足。ツール導入そのものを褒めると、継続率が高まります。
チームで褒め言葉を共有する
薬剤師だけでなく、受付や看護師とも褒めポイントを共有すると一貫した体験になります。私は申し送りに「飲み忘れが減ったことを本人に伝えてあげて」と具体的に書きます。
まとめ:小さな承認が大きな継続を生む
褒め言葉は無料で効果的なアドヒアランス向上ツールです。観察→事実を拾う→相手の価値観に沿った言葉で承認、の流れを習慣化すれば、患者さんは自分の行動を誇らしく感じます。今日から一言「ここが良かったですね」を増やし、継続の火を絶やさないチームを作りましょう。

