物語で深めるナラティブ支援

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毎日40人・年間1万人以上と会話しているRyoです。薬局のカウンターでは、患者さんの人生が物語のように目の前で展開します。処方箋1枚の裏に、生活や家族のドラマが隠れているんですよね。
そんな物語を大事に扱うために役立つのが「ナラティブアプローチ」。カウンセリングの世界で有名ですが、医療・接客の現場でも使える考え方です。今回はこの手法を実体験ベースでお話しします。

目次

ナラティブアプローチとは?

ナラティブアプローチは「人は物語を通じて自分を理解する」という前提に立ち、相手の語りを尊重しながら新しい意味づけを一緒に編み直す支援方法です。問題を直接解決するよりも、相手が自分のストーリーを再編集する手伝いをします。

物語を扱う理由

誰しも自分なりの物語を持っています。「私は怠け者だから薬を飲み忘れる」「忙しいから健康管理は無理」など、セルフストーリーが行動を決めることも。ナラティブアプローチは、この物語を別の視点に書き換えていく作業です。

医療現場との相性

薬局では「薬を飲めない」「通院が面倒」といった問題がよく浮かびます。でもそこには必ず背景のストーリーがある。ナラティブアプローチを使えば、単なる指導ではなく「その人の人生に寄り添う会話」ができます。

私がナラティブアプローチに出会った話

薬局勤務3年目、糖尿病の患者さんAさんに毎月叱られていました。「また飲み忘れた?」「なんでできないの?」と私も責め気味。ある日、Aさんがぽつりと「実は夫が介護状態で、自分の食事どころじゃない」と打ち明けました。その瞬間、私の指導は完全にズレていたと気づいたんです。

そこでナラティブアプローチの本を読み漁り、「あなたの物語を一緒に整理させてください」とお願いしてみました。すると、介護と仕事でヘトヘトな日常、罪悪感で押しつぶされそうな気持ちを語ってくれました。私の役割は説教ではなく、物語の編集を手伝うことだったんです。

ナラティブアプローチの基本ステップ

1. 外在化する

問題を「その人自身」と切り離し、外に置くステップです。「飲み忘れの鬼が邪魔しているみたいですね」「忙しさ怪獣が暴れているんですね」と比喩を使うと、相手が自分を責めずに話せます。私はAさんに「介護と仕事が同時に走るレースコースを走っている感じですよね」と伝えました。

2. 例外を探す

うまくいかなかったストーリーの中にも、うまくいった瞬間が必ずあります。「飲めた日はいつでした?」「どんな条件が揃っていました?」と聞き、ポジティブなエピソードを掘り起こします。Aさんの場合、「朝に夫がデイサービスへ行く日は飲めている」と判明しました。

3. 物語を再構成する

見つけた例外を軸に、新しい物語を一緒に描きます。「忙しい自分」ではなく「工夫で乗り切っている自分」を主人公にしてもらう。私はAさんと「デイサービスの日を味方につける作戦」というタイトルを作り、飲む時間にタイマーを設定する物語を共創しました。

現場で役立つナラティブの聞き方

オープニングで安心感をつくる

最初に「今日はどんな1日でした?」と日常の入り口から話してもらうと、物語の流れが自然に始まります。「薬の話だけでなく、最近の出来事を教えてください」と伝えると、相手が心を開いてくれます。

感情の言葉を拾う

「しんどい」「申し訳ない」「怖い」といった感情ワードが出たら、その瞬間が物語の核心。私は必ず「それはどんな場面でした?」と詳しく尋ねます。感情を言語化することで、ストーリーが鮮明になります。

比喩と時間軸を使う

物語には時間の流れがあります。「いつ頃からそう感じていますか?」「その前はどうでした?」と時間軸を追い、過去→現在→未来の流れを整理します。比喩も効果的。「山登りみたいに段差がありますね」「長距離マラソンの折り返し地点ですね」と声をかけると、相手が状況を俯瞰できます。

ナラティブアプローチのメリット

自己効力感が高まる

自分の物語を言葉にすると、主体性が戻ってきます。Aさんも「私にもできることがあるんだ」と笑顔を見せてくれました。

信頼関係が深まる

物語を共に紡ぐことで、単なる「薬剤師と患者」ではなく「伴走者」になれます。私は今でもAさんの家族の近況を聞くとき、物語の続きを聞いている感覚です。

実践的な解決策が生まれる

ストーリーの中から、現実的なアイデアが自然と出てきます。「息子さんにLINEでリマインドしてもらう」「服薬ボックスをテーブルに置く」など、本人が語ったことだから納得度が高い。

ナラティブアプローチの注意点

解釈を押し付けない

支援者が勝手に「こういう物語ですよね」と決めつけると、相手は黙ってしまいます。私は必ず「今のまとめで合っていますか?」と確認しながら進めます。

感情を受け止め切る覚悟

物語を聴くと、怒りや悲しみがダイレクトに飛び込んできます。自分が揺さぶられることも。そんなときは深呼吸して「ここは語ってもいい場所ですよ」と伝える。支援者の心の土台が必要です。

時間管理を工夫する

ナラティブはじっくり聴く必要があり、忙しい現場では時間が足りないことも。私は待ち時間が少ないタイミングを見つけて「5分だけ物語を聞かせてください」と区切りを宣言しています。それでも足りないときは、次回の来局時に続きを約束します。

現場で活用できるツール

ナラティブメモ

小さなノートに「キーワード・感情・次に聴きたいこと」をメモします。Aさんなら「夫の介護」「罪悪感」「デイサービスの日は飲める」など。次回の面談で「あのとき〇〇とおっしゃっていましたよね」と確認でき、物語が途切れません。

物語の地図

紙に円を描き、中心に相手の名前を書きます。周囲に登場人物や出来事を配置し、矢印で関係性を描くと、物語の構造が視覚化されます。私はこの地図を使って、Aさんと「夫」「息子」「仕事」「自分の健康」という要素を整理しました。

小さなレター

面談後に短いメモを渡すのも効果的です。「今日の物語、胸に響きました」「デイサービスの日作戦、応援しています」とメッセージを書くと、相手の新しい物語を後押しできます。

シチュエーション別ナラティブ活用例

慢性疾患の服薬指導

症状が落ち着いていると薬の必要性を忘れがちです。「症状が安定している今、どんな生活を送りたいですか?」と未来の物語を描いてもらうと、服薬の意味が再確認されます。

クレーム対応

怒りに満ちた物語を聴くときは、「どんな経緯でこの怒りが生まれました?」と時間軸で整理します。怒りの裏には「大事にされたい」というストーリーが潜んでいることが多い。そこに共感すると、自然と対話が落ち着いていきます。

新人教育

新人スタッフには、自分の成長物語を語ってもらいます。「なぜ薬剤師になろうと思ったの?」「どんな患者さんと出会いたい?」と聞くことで、仕事への意欲が高まります。

ナラティブの質を高める質問リスト

  1. この出来事にタイトルを付けるとしたら?
  2. 登場人物は誰で、それぞれどんな役割?
  3. どの瞬間に気持ちが一番動いた?
  4. そのとき、あなたは何を大切にしたかった?
  5. 次の章はどんな展開にしたい?

私はこの質問をカードにして持ち歩き、会話の中で自然に織り交ぜています。質問自体が相手の思考を整理し、新しい物語の扉を開きます。

ナラティブアプローチとチーム連携

情報共有は敬意をもって

ナラティブで得た情報は、プライバシーに配慮しながらチームで共有します。「Aさんは家族の介護で時間が取りづらいそうです」と事実ベースで伝える。感情や価値観を勝手に広めないことが大切です。

カンファレンスで物語を語り合う

スタッフミーティングで「今日の物語」を共有すると、患者さんへの理解が一気に深まります。「〇〇さんは娘さんに弱みを見せたくないらしい」と知るだけで、声のかけ方が変わります。

多職種連携で章をつなぐ

医師・看護師・介護職などと連携するときは、「Aさんの物語では今ここが山場です」とシェアします。物語の章を共有すると、支援の方向性が揃いやすい。私はケアマネさんと連絡を取るとき、必ず「いま語られている物語のテーマ」を伝えています。

ナラティブが生み出した変化

Aさんは「デイサービスの日作戦」で服薬率が大幅に上がり、「自分の体もケアする権利がある」と語ってくれるようになりました。他の患者さんでも、「孫にかっこいい姿を見せたい」という物語から禁煙に成功した方、「夫婦で健康寿命を延ばしたい」という物語から運動習慣を始めた方など、物語が行動を引き出す場面を何度も見てきました。

実践のコツと落とし穴

無理にまとめない

物語が途中で終わってもOKです。「続きは次回聞かせてください」と約束するほうが、相手も安心します。支援者が完結させようと焦ると、物語が浅くなります。

自分の物語も整える

支援者自身が疲れていると、相手の物語に引きずられてしまいます。私は週末になると、自分のナラティブノートを開き「今週いちばん心が動いた瞬間は?」と書き出し、感情を整えています。

文化や価値観を尊重する

物語は文化背景で大きく変わります。「家族に迷惑をかけたくない」「弱音は見せたくない」といった価値観を否定せず、尊重しながら新しい選択肢を一緒に探ります。

明日から始めるナラティブアプローチ

  1. 今日出会った人の物語を一行でメモする
  2. 相手の感情ワードにマーカーを引く
  3. 例外が見つかったら必ず褒める
  4. 物語のタイトルを一緒に考える
  5. 次回の面談で「前回の続きを教えてください」と伝える

この5つを実践するだけで、会話の景色が変わります。物語に耳を傾けると、相手の目が輝き始める瞬間が何度も訪れます。

まとめとメッセージ

ナラティブアプローチは、専門家だけの技術ではありません。薬局、営業、接客、どんな現場でも「相手の物語に敬意を払う」ことさえできれば、導入できます。物語を丁寧に聴くことは、その人の尊厳を守る行為。カウンター越しでも、オンラインでも、できることはたくさんあります。

明日も誰かの物語が始まります。あなたはその物語の脇役でもあり、脚本を一緒に書く共同作者でもあります。焦らず、急がず、丁寧に。私も現場で迷いながらですが、物語に寄り添う支援を続けています。一緒にナラティブの力を磨いていきましょう。

自分に問い続けたいこと

今日、どの物語に立ち会いましたか? その物語にどんな感情を抱きましたか? 次に会うとき、どんな続きを聴きたいですか? この問いを胸に、またカウンターでお会いしましょう。

ケース別ナラティブの実際

ケース1: 服薬拒否の高校生

高校生のBさんは「薬なんて飲んだら負け」と反抗的でした。私は正面から説得するのをやめ、「そのセリフ、どんな物語の主人公が言いそう?」と聞いてみました。Bさんは「部活でキャプテンをしているから弱音を見せたくない」と答えました。そこで「キャプテンが仲間を守るために作戦会議をする物語」に書き換え、練習後に飲めるようタイムラインを一緒に作成。翌月には「飲めると部活で走れる」と自分の言葉で語ってくれるようになりました。

ケース2: 介護疲れの娘さん

母親を介護するCさんは「自分だけ我慢すればいい」と語っていました。私は「この物語にタイトルを付けるなら?」と質問すると、「止まらない献身」と答えが返ってきました。「別のタイトルに変えるなら?」と投げかけると、「バトンを渡す勇気」と新しい言葉が。そこから兄弟やヘルパーに頼る物語へ移行でき、介護の負担が軽くなりました。

ケース3: 転職で不安な薬剤師仲間

同僚の薬剤師が転職を迷っていたときもナラティブが役立ちました。「今の職場での物語はどんなジャンル?」と尋ねると、「耐えるドラマ」と苦笑い。そこで「次の章で挑戦したいこと」を語ってもらい、未来志向のストーリーを描くことで、自信を持って新しい職場へ進んでいきました。

ナラティブを支えるフレーズ集

  • 「その場面を映画のワンシーンだと思って描写してみてください」
  • 「物語の登場人物は誰がいますか?」
  • 「過去のどの経験が、今のあなたを支えてくれそうですか?」
  • 「次の章で叶えたいことを3つ挙げるとしたら?」
  • 「この物語に応援メッセージを送るとしたら、なんて言いますか?」

フレーズを準備しておくと、会話の迷路に入り込んでも抜け道が見つかります。私はポケットに小さなカードを忍ばせ、迷ったときにこっそり確認しています。

よくある質問

Q1. ナラティブを聴く時間が取れないときは?

A. 全部を一度に聴こうとせず、「今日のハイライトだけ教えてください」と絞り込むのがおすすめです。次回につなげるメモを忘れずに。

Q2. 感情が爆発して手に負えなくなったら?

A. 感情の波を受け止めつつ、「今はどんな言葉でこの気持ちを表現できますか?」と問いかけます。言葉にすることで、物語が整理されていきます。必要に応じて専門職につなぐ判断も忘れずに。

Q3. 物語を聞いていると涙が出そうになる

A. 支援者の感情も大切にしてください。「胸がいっぱいになりました」と正直に伝え、深呼吸を一緒にするのも一つの方法。自分の心のケアを怠らないことが、長く続ける秘訣です。

ナラティブアプローチをチームに浸透させるステップ

  1. 月1回、スタッフ同士で「物語共有会」を開く
  2. 感動した会話を匿名でホワイトボードに貼り出す
  3. カルテや顧客管理ツールに「物語メモ欄」を設ける
  4. 新人にナラティブの事例集を渡す
  5. 外部研修で学んだことを帰社後10分で共有する

これらを続けると、チーム全体の会話の質が底上げされます。私の薬局では共有会を始めてから、スタッフ同士が互いの物語も語り合うようになり、連携が格段に良くなりました。

ナラティブを継続するセルフケア

感情の棚卸しタイム

週に一度、静かな場所で「嬉しかった物語」「つらかった物語」を書き出します。感情を言語化すると、心の負荷が和らぎ、次の面談に集中できます。

インスピレーションの補給

映画や小説、ポッドキャストなど、他人の物語に触れる時間を意識的に作ります。多様なストーリーパターンを知っているほど、相手の物語に寄り添う引き出しが増えます。

同僚とのピアサポート

「今日はこんな物語を聴いたんだ」と雑談ベースで共有すると、気持ちが整います。私は帰宅前に同僚と5分の立ち話をするのをルールにしており、心が軽くなるのを感じています。

物語を未来につなげる

ナラティブアプローチのゴールは、相手が未来の物語を楽しみにできるようになることです。Aさんが「次の章では旅行に行きたい」と語ってくれたとき、私は心の中でガッツポーズをしました。物語が前を向くと、人は自然と行動を起こします。

私たち支援者は、その背中を押すナレーター。セリフを奪わず、照明を当て、舞台を整える。そんな丁寧な関わりが、薬局でも営業でも教育現場でも、大きな変化を生み出します。

明日へのひと言

眠る前に、今日出会った物語の中で心に残った一文をノートに書き留めてみてください。その一文が、次に会うときの会話のヒントになります。私もこの習慣を続けてから、物語の続きを自然に引き出せるようになりました。

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この記事を書いた人

現役薬剤師として、人と向き合う仕事を続けてきました。
患者さんとの何気ない会話の中に、信頼や安心が生まれる瞬間がある――そんな「伝え方」の力に魅せられて、このブログをはじめました。

いまは医療の現場を離れ、**「伝える力」「聴く力」**をテーマに、日常や職場、家族の中で使えるコミュニケーションのヒントを発信しています。

心理学や会話術、言葉選びの工夫など、明日から使える内容を中心に。
読んだ人の人間関係が少しでもやわらかくなるような記事を目指しています。

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