毎日40人・年間1万人以上と会話しているRyoです。薬局で患者さんの気持ちを聞き取り、こちらの思いを丁寧に伝える仕事をしていると、感情表現がうまくできない人がどれほど多いか痛感します。今日は「素直に伝える」力を育てる練習法を、現場での試行錯誤とともにお届けします。
感情を飲み込みすぎると何が起きるのか
感情表現が苦手だと、自分の本音を押し殺すクセがつきます。患者さんからも「本当は不安なのに黙ってしまった」「薬剤師さんに言い出せなかった」とよく聞きます。私自身も新人の頃、上司に相談できずストレスをためて体調を崩した経験があります。感情を飲み込む習慣が続くと、心身ともにダメージが蓄積していきます。
無理を続けた私の失敗談
在宅訪問を始めたばかりの頃、患者さんの家族と意見が合わず、モヤモヤを抱えたまま帰宅しました。「迷惑をかけたくない」と黙っていたら、次の訪問で家族が「もっと早く言ってくれれば良かったのに」と言ったのです。相手は私が遠慮しているとは思っておらず、ただ情報が不足していた。そこで初めて「感情を飲み込むのは相手のためにもならない」と気づきました。
感情を伝えないことで起きる誤解
言葉にしない感情は、相手に想像で補われます。「怒っている?」「信用していない?」と勝手に解釈されると、関係がぎくしゃくする。薬局でも、患者さんが不安を言わないせいで副作用が悪化したケースがありました。感情を正確に伝えることは、安全にも直結します。
素直に伝えるための土台作り
感情表現が苦手な人は、いきなり本音をぶつけるのではなく、段階的に練習するのがポイントです。
ステップ1:感情をラベル化する
自分が今どんな感情を抱いているのかを、短い言葉でラベル化します。「不安」「嬉しい」「困惑」「悔しい」など。私は勤務後に5分間、1日の出来事を書き出し、感情を3つ挙げる習慣を続けています。これを半年続けたら、会話中にも「今、不安なんだな」と気づけるようになりました。
ステップ2:身体の反応を観察する
感情は体に現れます。胸がざわつく、肩がこわばる、手が冷たくなる。こうしたサインに気づくことで、感情を言葉にしやすくなります。私は患者さんと話していて喉が詰まった時、「この言い方は伝わっていないかも」と感じ、言い直すようになりました。
ステップ3:安全な場で練習する
いきなり職場で感情をさらけ出すのは怖いもの。私は信頼できる同僚と15分の「感情共有タイム」を設け、互いに今日の出来事と感情を話す練習をしました。安全な場で練習すれば、本番でも言葉が出やすくなります。
「素直に伝える」実践フレーズ集
実際にどんな言葉で感情を伝えれば良いのか、現場で使って効果的だったフレーズを紹介します。
不安や心配を伝える
- 「正直に言うと、今の説明だけだと患者さんの不安が解消できるか心配です。」
- 「この量で体に負担がかからないか不安なので、もう少し確認させてください。」
喜びや感謝を伝える
- 「一緒に対応してくださって本当に心強かったです。ありがとうございます。」
- 「患者さんが笑顔になった瞬間、すごく嬉しかったです。」
悔しさや改善したい気持ちを伝える
- 「今回の説明でうまく伝えられなかったのが悔しいので、次回までに資料を作り直します。」
- 「正直、今の流れだと患者さんが混乱しそうなので、改善案を提案させてください。」
感情表現を支える聞き方のコツ
自分の感情を伝えるだけでなく、相手の感情を受け止める姿勢も重要です。
感情の言葉を引き出す質問
患者さんが黙り込んだ時は、「そのお話を聞いてどう感じられましたか?」と尋ねます。感情を聞くことで、相手も素直に言いやすくなる。家族との話し合いでも「どの部分が不安でしたか?」と感情にフォーカスするだけで、空気が柔らかくなります。
相手の言葉を要約して返す
「つまり、急な副作用が心配なんですね」と要約すると、感情を受け止めたことが伝わります。私はこれを徹底するようになってから、「話しやすい」と言われることが増えました。
批判しない沈黙
相手が感情を絞り出すまでの沈黙を、急かさず待つ。以前は沈黙が怖くて言葉を埋めていましたが、我慢して待つようにしたら、患者さんが「実は怖かった」と本音を話してくれるようになりました。
感情を伝える勇気を育てるセルフトレーニング
継続的に取り組めるセルフワークを紹介します。
日記で感情の筋トレ
1日の終わりに「事実」「感情」「次の行動」をセットで書く。例えば「患者さんから質問攻めにされて焦った→自分の説明が足りなかったと悔しかった→次回までに想定問答を作る」。これを繰り返すと、感情と行動が結びつき、言葉にしやすくなります。
音読で声に出す
感情表現の台本を作り、声に出して練習します。「私は今、戸惑っています」「嬉しいです」と声にするだけで、口から感情が出る感覚が身につきます。私は電車待ちのホームで小声で練習していました。
小さな正直を積み重ねる
いきなり大きな本音を言うのは怖いので、「今日は少し疲れています」「今の説明、もう一度聞きたいです」といった小さな正直を日常で積み重ねます。患者さんにも「今日は少し不安が強いです」と言ってもらえるよう、私自身が先に正直に話すようにしています。
感情表現が苦手な部下や家族を支える
自分だけでなく、周囲にも感情を言えず悩む人がいます。サポートする立場として意識しているポイントを共有します。
聞き役が先に安心感を示す
「どんなことを感じても大丈夫ですよ」と伝え、否定しない姿勢を見せます。私は新人薬剤師と面談する時、最初に「愚痴でもOK」と言ってから話を聞きます。これだけで相手の表情が柔らかくなる。
具体的な言葉を提案する
「怒っている」という言葉が出てこない人には、「モヤモヤする?」「悔しい?」と選択肢を出す。感情の語彙を一緒に増やすイメージです。
行動に結びつけて背中を押す
感情を伝えた後の行動を一緒に決める。「じゃあ、その不安を医師に共有しよう」「次の面談でそのまま言ってみよう」と伴走することで、感情表現の成功体験が生まれます。
感情とプロフェッショナルのバランス
医療現場では感情を抑える訓練を受けることも多いですが、抑えすぎると燃え尽きます。
感情を見せることは弱さではない
患者さんに涙を見せたくないと頑張りすぎる人がいますが、適度に感情を見せた方が信頼される場合もあります。私は終末期患者さんのご家族と抱き合って泣いたことがあります。プロとしての線引きは必要ですが、感情を共有したことで関係が深まりました。
自己メンテナンスを忘れない
感情を伝えるには、自分の心をケアする時間が不可欠です。私は週に一度、カフェで一人振り返りタイムを作り、感情を紙に書き出しています。これをサボると、仕事中に感情が爆発しやすくなるので要注意です。
境界線を守るルール
感情を伝える際は、「私は」で始める一人称メッセージを使う。例えば「私はこのスケジュールだと負担が大きいと感じています」と言えば、相手を責めずに本音を伝えられます。境界線を守ることで、プロとしての信頼も維持できます。
感情表現を豊かにする語彙トレーニング
言葉の引き出しが少ないと、感情をうまく伝えられません。私は「感情ボキャブラリーカード」を作り、日々アップデートしています。
感情ボキャブラリーを増やす方法
- ネットや書籍から感情を表す言葉を集める(例:安堵、焦燥、ほっとする、胸が熱くなる)
- カードに書き出し、1日3枚ランダムに引いて日常の出来事に当てはめる
- 会話中にその言葉を使ってみる
語彙が増えると、「なんかモヤモヤする」から「期待が大きい分だけ不安もある」という具体的な表現に変わります。これだけで相手の理解度が格段に上がります。
感情日記の書き方例
- 事実:患者さんから急に薬の在庫を増やしてほしいと言われた
- 感情:驚いた、焦った、でも頼りにされて嬉しかった
- 体の反応:心拍が速くなり、手に汗をかいた
- 行動:在庫状況を確認し、代替案を提案
- 学び:驚いた時は深呼吸してから返答すると、余裕を持って対応できる
感情表現を邪魔する思い込みを手放す
「感情を出すと迷惑」「弱みを見せたら負け」といった思い込みが、素直な表現を阻みます。
思い込みを書き換える手順
- 思い込みを書く:「感情を出すと面倒な人だと思われる」
- その根拠を探す:過去に否定された経験があるか?
- 反証を集める:感情を伝えたことで関係が良くなった例は?
- 新しい信念を作る:「感情を丁寧に伝えれば、信頼が深まる」
私はこのワークを繰り返し、少しずつ自己開示への抵抗が減りました。
感情共有ミーティングのすすめ
職場で感情を共有する時間を意図的に作ると、チーム全体のコミュニケーションが向上します。
実践例
- 毎週のカンファレンス前に「最近嬉しかったこと・困ったこと」を1人1分で共有
- 共有を聞いたら「聞いてどう感じたか」を一言添える
- 批判やアドバイスは禁止、受け止めるだけ
これを3か月続けたところ、スタッフ同士の声かけが増え、患者さんへのフォローも丁寧になりました。感情共有は、信頼の循環を生みます。
感情を伝えるメール・チャットの書き方
面と向かって話すのが難しい時は、文章で感情を伝える練習も有効です。
フレームワーク:事実→感情→要望
例:「本日の引き継ぎが時間通りに始まらなかったことで、正直焦りました。次回は開始5分前に集合できるよう、ご協力いただけますか?」
この順序だと責めるニュアンスが薄まり、相手も受け止めやすくなります。
ケーススタディ:感情を伝えて改善した事例
在宅医療チームでの出来事。夜間の連絡が多く、私は心身ともに疲れていました。以前なら黙って耐えていましたが、「夜間対応が続いて正直疲労が溜まっています。シフトを調整できないか相談させてください」と伝えたところ、チームがすぐ動いてくれました。代わりにサポートしてくれた同僚からは「早めに言ってくれて助かった」と感謝され、むしろ関係が強くなりました。
感情表現とセルフコンパッション
自分を責めすぎる人は、感情を伝える余裕がありません。セルフコンパッション(自分への思いやり)を取り入れると、心のクッションが生まれます。
セルフコンパッションの3要素
- マインドフルネス:今の感情を判断せず観察する
- 共通の人間性:「誰でも失敗する」と捉える
- 自分への優しさ:友人にかけるような言葉を自分にかける
私は失敗した日の夜、「今日はよく頑張った。次に活かそう」と声をかけます。これだけで翌日また感情を伝える勇気が湧いてきます。
感情表現の練習プラン(7日間)
1日目:感情ラベル作り
- 10個の感情ワードを書き出す
- 1日の終わりにどの感情が強かったかチェック
2日目:身体のサイン観察
- 感情を抱いた瞬間の体の反応をメモ
- 呼吸や姿勢の変化を意識
3日目:小さな正直を1つ言う
- 同僚に「今日は少し疲れてます」と伝えるなど
4日目:感情日記を書く
- 事実・感情・行動・学びをセットで記録
5日目:安全な相手と感情共有
- 信頼できる人に10分だけ話を聞いてもらう
6日目:メールで感情を伝える
- 事実→感情→要望のフレームで1通送る
7日目:振り返りと次の目標設定
- 一番難しかった場面と、次に挑戦したい場面を記録
この7日間プランを回すと、感情を言葉にする筋肉が一気に鍛えられます。
感情表現を支える環境整備
- フィードバック文化を作る:月1回、スタッフ同士で感謝と改善点を伝え合う。
- 情報共有ツールに感情欄を設ける:「不安」「安心」など一言添えるスペースを作る。
- リフレッシュスペースを用意:短時間で感情をリセットできる場所を確保する。
環境が整うと、個人の努力が継続しやすくなります。
感情を伝える時のNG例とリライト
-
NG:「なんでこんな遅いの?ちゃんとしてよ!」
-
リライト:「予定より遅れていて焦っています。あと何分で終わりそうか教えてもらえますか?」
-
NG:「もう無理。やりたくない。」
-
リライト:「今の業務量だと体力が持たず不安です。優先順位を一緒に見直してもらえますか?」
攻撃的な表現を避けるだけで、相手の反応は大きく変わります。
まとめ:素直に伝える練習は今日から始められる
感情表現が苦手でも、感情をラベル化し、身体のサインに気づき、安全な場で練習を重ねれば、少しずつ「素直に伝える」ことができるようになります。小さな正直を積み重ね、感情を言葉にする習慣を作る。そうすれば、仕事もプライベートも驚くほど楽になります。明日の会話で、ひと言だけでも自分の感情を添えてみてください。その一歩が、信頼関係を深め、心を軽くするきっかけになります。
感情を伝える前のセルフチェック
伝える前に心を整えるため、私は以下のチェックリストを使っています。
- 今の感情を1語で言えるか?
- 伝える目的が明確か?
- 相手の状況を想像できているか?
- 感情に事実を添えられるか?
- 伝えた後にどう動きたいかイメージできているか?
5項目のうち3つ以上クリアしたら、ひと呼吸置いてから感情を伝えます。これだけで言葉が尖りづらくなります。
会話で使える「Iメッセージ」テンプレ
- 事実:「今日のカンファレンスで、私の説明が途中で終わってしまいましたよね。」
- 感情:「その瞬間、正直焦ってしまいました。」
- 要望:「次回は時間配分を一緒に確認していただけると助かります。」
このテンプレを覚えると、感情を伝えながらも建設的な話し合いができます。私は薬局のチームMTGでこの構造をホワイトボードに書き、全員で共有しています。
感情と向き合う3分瞑想
忙しい現場でもできる、3分の感情瞑想を習慣にしています。
- 背筋を伸ばし、目を閉じる
- 呼吸を数えながら、今の感情を一言ずつ心の中でつぶやく
- 「吸う息で感情を受け止め、吐く息で余分な力を手放す」イメージを持つ
たった3分でも心のざわつきが落ち着き、感情を言葉に乗せやすくなります。
Q&A:感情表現にまつわる疑問
Q. 泣きそうになったらどうすればいい?
A. 無理に止めると余計にこみ上げます。私は「少し感情が動いてしまって…」と素直に言い、深呼吸します。涙が出ても構いません。ただし、相手を置き去りにしないよう「あとで整理して共有します」と一言添えます。
Q. 感情を伝えても反応が薄い
A. 相手がすぐに反応しないのは、情報を整理している可能性があります。「今はどう感じていますか?」とフォローし、相手が話すまで待ちます。時間が必要なタイプだと理解すれば、焦らずに済みます。
Q. ネガティブな感情ばかり出てしまう
A. 感謝や喜びを意識的に見つける時間を作りましょう。私は「今日の嬉しかったことノート」を付け、毎晩3つ書きます。ポジティブ感情の筋肉も育ち、伝え方のバランスが整います。
感情を共有するミニワークショップ案
チームで実践したワークショップが好評だったので紹介します。
- 参加者に付箋を配り、「最近心が動いた出来事」を1枚1出来事で書いてもらう。
- 感情の種類ごとに模造紙へ貼り分ける(嬉しい・不安・怒りなど)。
- 感情ごとにグループを作り、どう対処したかを5分共有。
- 最後に「明日からできるサポート」を宣言。
このワークを通じて「同じように感じている仲間がいる」と気づき、職場の雰囲気が格段に良くなりました。
感情共有を促す質問リスト
- 「それを聞いた時、どんな気持ちになりましたか?」
- 「身体のどこにその感覚が出ました?」
- 「今の感情に点数を付けるとしたら?」
- 「その気持ちを少し軽くするには、何が必要ですか?」
- 「私にできるサポートはありますか?」
質問のストックがあると、相手の感情を引き出しやすくなります。
感情表現を支えるツール紹介
- 感情カードアプリ:スマホで気持ちを選ぶだけで、記録が残る。
- ムードジャーナル:1日3回、感情と出来事をメモできる手帳。
- タイムタイマー:感情共有タイムを5分など短く区切るのに便利。
ツールを使うと、習慣化がスムーズになります。
感情の偏りを整える1週間レビュー
週末に以下の項目を振り返ります。
- 今週最も強く感じた感情は?
- その感情を誰に伝えたか?
- 伝えられなかった感情は何か?
- 次週、どんなシーンで正直に伝えたいか?
- 自分をねぎらう言葉を一言書く
このレビューを続けると、感情の偏りが見えてバランスを取りやすくなります。
現場エピソード:感情を伝えて救われた話
数年前、薬の副作用で不安が強い患者さんがいました。私は「正直、今のお話を聞いて私も胸がぎゅっとなりました。一緒に安全な飲み方を整理しましょう」と伝えました。患者さんは涙を浮かべながら「気持ちをわかってくれるだけで安心する」と言ってくれた。その後は毎回不安を率直に伝えてくれるようになり、副作用の早期発見につながりました。感情を共有することで、命を守れた瞬間です。
明日からの5分ルーティン
- 朝、鏡の前で「今日の感情」を一言つぶやく
- 通勤中に感情ボキャブラリーカードを1枚読む
- 昼に感謝したい人をメッセージで伝える
- 夕方に小さな正直を一つ言う
- 夜に感情日記を3行書く
このルーティンを回すと、感情表現が自然に生活に溶け込みます。

