毎日40人・年間1万人以上と会話しているRyoです。患者さんはもちろん、ドクターや同僚とも情報をやり取りし続ける日々なので、伝わっていないまま話が進む怖さは骨身に染みています。そこで頼りにしているのが「グラウンディング」という考え方。今日は会話の土台を固めるこのプロセスを、薬局現場の事例と一緒に徹底的に掘り下げます。
グラウンディングとは何か
会話のグラウンディングは、相手と自分が「同じ理解に立っている」と確認し合うプロセスのこと。曖昧な理解のまま進むと、指示ミスやクレームにつながります。特に医療の現場では、聞き間違い一つで薬の飲み方が変わり、健康被害が出ることも。だからこそ「伝えたつもり」を排除し、「伝わった確信」を積み重ねる必要があります。
グラウンディングは言語学者のハーバート・クラークが提唱した概念で、会話の参加者が共有知識を確認しながらやり取りするメカニズムを説明しています。難しい理論に見えますが、実は私たちが日常的にしている「大丈夫ですか?」「ここまで理解できていますか?」という一言がまさにそれ。現場で意識的に使えば、誤解ゼロに近づけます。
なぜ今グラウンディングが重要なのか
情報量が増えすぎた
医療情報は年々更新され、患者さんがネットで仕入れる情報も玉石混交です。「このサプリと一緒に飲んでいい?」と質問され、私が「念のためやめておきましょう」と答えたら、後日「飲んでもいいって聞いたのに」と言われたことがありました。こちらは注意喚起のつもりでも、相手は肯定と解釈していた。ここでグラウンディングができていれば、「つまり今回は併用を控える、で合っていますか?」と確認できたはずです。
多職種連携が当たり前になった
薬剤師は医師、看護師、ケアマネと情報共有を繰り返します。電話越しやチャットでの連絡が増える中、表情やジェスチャーが伝わりづらい分、言葉で理解をそろえる力が欠かせません。グラウンディングを習慣化すると、職種を超えてミスを防げます。
グラウンディングの三つの柱
1. シグナルの発信
理解しているサインを自分から出すこと。頷き、相槌、「なるほど」「了解です」といった短い言葉がシグナルになります。私は処方箋を受け取った瞬間から「確認しました」「〇〇の量ですね」と声に出し、患者さんに自分の理解を提示します。これだけで、相手は「この人はちゃんと聞いてくれている」と安心するものです。
2. リクエスト
相手の理解度を確かめる質問です。「ここまでで不明点ありますか?」では曖昧なので、「明日の朝飲む理由、説明できますか?」と具体的に聞くようにしています。患者さんが自分の言葉で説明できれば、理解が合っている証拠。もし詰まるなら、そこが補足すべきポイントだとわかります。
3. コンファメーション
確認後に「よし、揃った」と宣言する工程。私は「では、1日2回、朝と夕方に飲むで合意ですね」と言葉にして締めます。これがないと、せっかく確認しても印象に残りません。最後のひと押しで記憶に刻み込みます。
グラウンディングを支えるサイン
非言語の小さな動き
頷きの深さ、眉の上がり方、肩の力の抜け方。患者さんのこうした変化は、理解が進んだサインです。私は説明中に、相手の肩がストンと落ちた瞬間に「ここで納得してくれたな」と判断し、次のステップへ進みます。逆に肩が上がったままの時は、理解が浅い証拠なので、一度話を戻します。
音のヒント
息を飲む音や「うーん」という唸り声も見逃せません。マスク生活が長くなるほど表情が読みにくくなるため、私は聴覚情報に頼る比率を上げています。「あっ」と小さな声が出たら、そこで区切りを入れ、「今の説明で疑問が浮かびましたか?」と問いかけます。
手元の動き
薬手帳をぎゅっと握る、メモを取り始めるなど、手元の動きも共有理解のバロメーター。メモを取っている時は一旦話すペースを落とし、書き終わるのを待ってから次に進むようにしています。
現場での実践プロセス
ステップ1: 受け取った情報を言い換える
患者さんが「最近、夜に咳がひどくて」と言ったら、「夜になると咳が強くなるんですね」と返す。これだけで相手は「自分の状況が理解された」と感じ、追加情報を話しやすくなります。言い換えはグラウンディングの第一歩。
ステップ2: 具体例で確認する
薬の服用方法を説明した後、「例えば今夜の19時に飲んで、明日の朝7時にも飲む形です。これならできますか?」と具体的に提示します。抽象的な説明だと、相手の生活リズムにフィットしないことがあるので、具体例でイメージを合わせることが重要です。
ステップ3: 相手の言葉を引き出す
「では、最後に今日のポイントを教えてください」とお願いすると、患者さんは自分の言葉で要点を話します。ここで出てきた言葉がこちらの説明とズレていたら、すぐ修正可能。相手の表情や声の張りで、どこに不安が残っているかも読み取れます。
ステップ4: 合意を言語化する
理解が揃ったら、「今日は〇〇を目的にこの薬を飲む、次回は△△を確認する、で合意ですね」と締めます。紙に書いたり、LINEの公式アカウントで再送したりすると、さらに再現性が高まります。
会話例で見るグラウンディング
例1: 忙しいビジネスパーソン
私「今回のお薬は朝食後と夕食後、1日2回です。今お伝えしたスケジュールで問題なさそうですか?」
患者さん「大丈夫です。朝は家、夜は職場で飲みます。」
私「なるほど。では夜は会社の引き出しに入れておく、で合っていますか?」
患者さん「はい、そうします。」
私「ありがとうございます。では、朝は家のテーブル、夜は会社の引き出しで決定ですね。」
例2: 子育て中の親御さん
私「お子さんには朝夕の食後にシロップを飲んでもらいます。今の説明で不安な点はありますか?」
親御さん「保育園に持たせた方がいいですか?」
私「朝はご自宅で飲んでいただき、夕方は帰宅後すぐが理想です。保育園に預ける時間帯を教えていただけますか?」
親御さん「夕方18時に迎えに行きます。」
私「では、迎えに行った直後に飲ませる形で問題ないか、もう一度確認させてください。」
親御さん「はい、それなら忘れずにできます。」
例3: 高齢者との会話
私「この薬は寝る前に1錠ですね。昨日お渡しした白い薬と一緒に飲んで大丈夫です。」
患者さん「えっと、白い薬って何でしたっけ?」
私「血圧のお薬で、朝に飲んでいるものです。念のため、今日の説明をもう一度私に伝えていただけますか?」
患者さん「朝は白い薬、寝る前に今日の薬。そうですね?」
私「その通りです。寝る前に水で飲む、で合意しましょう。」
グラウンディングを阻む罠
時間に追われて確認を省く
繁忙期になると、一人の患者さんにかけられる時間は数分。その中で確認を挟むと、次の人を待たせてしまうプレッシャーがかかります。私も焦って省略した結果、飲み忘れが発生したことが。そこで、確認の質問をあらかじめテンプレ化し、時間がなくても最小限のグラウンディングは必ず行うようにしました。
プライドが邪魔をする
専門家として説明した後に「わかりました?」と聞くのは、なんとなく自信がないようで嫌だという人もいます。でも、患者さんはむしろ「ちゃんと確認してくれる人だ」と安心します。自分のプライドより、相手の安全を優先。確認は信頼の証だと捉え直しました。
相手の「わかったふり」
頷きが多い人ほど、実は理解していないケースもあります。高齢の方は「迷惑をかけたくない」という思いから、分からなくても頷いてしまう。そこで私は「私が説明した内容を、ご家族にどう伝えますか?」と質問し、実際に説明してもらいます。ここで詰まれば、再度噛み砕いて伝えます。
自分のグラウンディングを診断する
5つのセルフチェック
- 言い換えた回数: 会話中に相手の言葉を自分の言葉で再確認した回数。
- 具体例を提示した回数: 抽象的な説明だけで終わらせていないか確認。
- 相手に話してもらった時間: 発話時間の半分を相手に渡せているか。
- 合意を言語化したか: 「〜で合意ですね」と締めたかどうか。
- フォロー手段を提示したか: メモや連絡先など、再確認の道を残したか。
数値化してみる
私は上記5項目を1〜5点で評価し、週ごとの平均を出しています。点数が低い項目があれば、翌週の重点ポイントとして朝礼で宣言。周囲にも見える形にすると、改善スピードが上がります。
会話タイプ別のグラウンディング術
忙しいビジネスパーソン
- 確認のタイミング: 説明→1フレーズ確認→最後にまとめ。
- 言葉選び: 「つまり」「要するに」などの要約語を多用。
- ツール: メモやスマホに撮れるチェックリストを渡す。
子育て中の親御さん
- 確認のタイミング: 子どもをあやしている合間に一つずつ。
- 言葉選び: 子どもが飲みやすいコツなど生活目線で説明。
- ツール: 絵付きの服薬カレンダーやLINE配信でフォロー。
高齢者
- 確認のタイミング: 座って目線を合わせ、ゆっくり反応を待つ。
- 言葉選び: 専門用語を避け、比喩や具体例で伝える。
- ツール: 大きな文字のメモ、家族への電話連絡。
グラウンディングを仕組み化する
チェックリストを共通化
薬局では「説明→言い換え→質問→合意」という4ステップをチェックリスト化し、投薬カウンターの見える位置に貼っています。誰でも同じ流れで説明できるようになり、患者さんからの質問数が減りました。
標準フレーズ集を整備
「つまり〜という理解でよろしいでしょうか」「今の説明をどなたかに伝えるとしたらどうなりますか?」など、現場で使えるフレーズを10個ほどリスト化。新人でもそのまま使えるよう、イントネーションや表情のポイントも書き込んでいます。フレーズ集は季節ごとに見直し、時事ネタや新薬情報にも対応させています。
会話ログを残す
電子薬歴に「今回の説明ポイント」「患者さんの理解サイン」「次回確認事項」を記録。次に対応するスタッフが見れば、どこまで理解が揃っているか一目でわかります。グラウンディングの履歴があるだけで、初見のスタッフでも安心して引き継げます。
フィードバック文化を作る
スタッフ同士でロールプレイを行い、グラウンディングのタイミングをチェック。私が説明役、後輩が患者役になり、「今の確認はわかりやすかった」「もう一歩噛み砕ける」とコメントし合います。最初は照れくさかったですが、みんなの引き出しが増える実感がありました。
オンラインでのグラウンディング
オンライン服薬指導やチャット対応では、音声や文字に頼るしかありません。そこで私は以下を意識しています。
- 画面共有で見える化: 飲み方をスライド化し、指差ししながら説明。
- リアクションボタンを活用: 「👍」などのボタンで理解サインをもらう。
- チャットで要約を送る: 会話後に箇条書きで再確認。
これだけで、対面と遜色ないレベルまでグラウンディングを引き上げられます。
バーチャル背景の工夫
背景が散らかっていると注意がそれます。私は薬局のロゴと投薬手順をさりげなく表示した背景を用意し、視覚的な補強を行っています。背景に明るめの色を使うと、顔色も良く見えます。
ラグ(遅延)への対応
回線の遅延で会話が被ると、理解確認が難しくなります。そこで、重要な情報を伝えた後は必ず1〜2秒黙って、相手の反応を待つことにしています。遅延が大きい時は「今お伝えした内容、届いていますか?」と確認し、チャットで補足を送るなど二重の手段を取ります。
グラウンディングを強化するトレーニング
ボイスレコーダーで自己チェック
自分の説明を録音し、後で聞き返すと「ここ、確認していないな」と反省点が浮かびます。私は週に一度、印象に残った会話を録音(当然相手の了承を得て)し、スタッフと一緒に分析しています。
先輩の会話を観察
ベテラン薬剤師の対応を横で聞き、「どこで確認しているのか」「どう言い換えているのか」をメモ。後で本人に質問すると、言葉選びの理由まで聞けるので学びが深まります。
擬似患者で練習
外部のトレーナーに依頼し、擬似患者を演じてもらう研修を実施。難しい質問を投げかけてもらい、どうグラウンディングするかその場で試します。緊張感の中で鍛えると、本番でも冷静に確認ができるようになります。
チームでの導入ステップ
ステップ1: 目的を共有
「誤解によるミスを減らす」「患者満足を高める」など、導入目的を明確にし、全員が同じゴールを見られるようにします。目的が曖昧だと、確認作業がただの手間に感じられ、定着しません。
ステップ2: 小さく始める
まずは一つのシフト、一つのチームで試行。私は早番チームから導入し、成功事例と課題を記録してから全体に広げました。小さな成功を積むことで抵抗感が減ります。
ステップ3: 仕組みとして定着させる
チェックリストやログのフォーマットを整え、誰でも同じ基準で実施できるようにします。毎月の評価面談にもグラウンディングの項目を組み込み、継続的に振り返れる環境を整えました。
グラウンディングの成果を可視化する
KPIを設定
説明にかかった時間、質問件数、再来時の理解度など、目に見える指標を設定。私は「説明後の追加質問が1件以下」「再来時に前回内容を説明できた患者さんの割合70%以上」を目標にしています。
ストーリーボードを活用
患者さんの変化を時系列でまとめたストーリーボードを作成。初回相談→グラウンディング→再来時の様子を記録することで、成果が一目で分かります。新人教育にも役立ちます。
数字と声を両方集める
アンケートの自由記述や口頭での感想も貴重なデータ。「説明が丁寧で安心した」「自分の言葉で話せてスッキリした」といった声を集め、チームで共有するとモチベーションが高まります。
明日からのグラウンディング習慣
- 説明前の一呼吸: 相手の表情を観察し、「今日の相手はどんな理解スピードか?」と自問してから話し始める。
- 一会話一確認: どんなに短い会話でも、必ず一度は理解確認の質問を挟む。
- 振り返りメモ: 1日の終わりに「うまくいった確認」「改善が必要な確認」をそれぞれ1つずつ書き出す。
ケーススタディで掘り下げる
ケース1: 情報過多で混乱している患者さん
ネットで調べた資料を抱えて来局した患者さんは、専門用語だらけで頭がパンク状態。私は資料を一緒に確認し、「ここまでで一番不安な点はどこですか?」と質問。患者さんが指差した箇所を要約し、「つまり、この薬とサプリの併用が心配なのですね」と言い換えました。その後、医師への確認結果を共有し、「併用を避ける、という理解で合意ですね」と締める。グラウンディングを丁寧に行った結果、後日「安心して薬を飲めました」と連絡がありました。
ケース2: 言語が異なるご家族
外国籍のご家族が通訳をしていたケースでは、翻訳のズレが生まれやすい。私は簡単な日本語とジェスチャーで説明し、通訳の方に「今の説明を英語でどう伝えますか?」と確認。さらに、図に描いた服薬スケジュールを見せながら「こちらの図で理解は合っていますか?」と二重で確認しました。結果的に飲み忘れはゼロ。言語の壁もグラウンディングで越えられると実感しました。
ケース3: オンラインでの家族同席
オンライン指導でご家族も同席した際、家族同士で話が脱線しがちでした。そこで私はチャットに要点を残し、「今の要点をお二人で確認してもらえますか?」と促し、最後に「どちらが薬を管理しますか?」と役割分担まで確認。全員が同じ理解を持てたことで、後日の問い合わせが激減しました。
よくある質問と答え
Q1. 確認が多いと嫌がられませんか?
A. 「安全のために一緒に確認させてください」と目的を添えると、ほとんどの人が快く応じてくれます。私は笑顔で「念のため、30秒だけお時間ください」と前置きしています。
Q2. メモを嫌がる人への対応は?
A. メモを断られたら、口頭でのリピートに切り替えます。「では、声に出して復唱してみましょう」と提案すると、多くの方が協力してくれます。
Q3. 時間がない時はどうする?
A. 要点を3つに絞り、「最初に言ったポイントを覚えていますか?」と逆質問。短時間でも双方向の確認を行えば、誤解を最小限に抑えられます。
まとめ
会話のグラウンディングは、単なる確認作業ではなく、信頼と安全を守る生命線。情報が溢れ、誤解が起こりやすい時代だからこそ、言葉で理解を揃えることが価値になります。毎日40人以上と会話する中で痛感するのは、相手の「わかったつもり」を剥がして本音を引き出すのは簡単ではないということ。だからこそ、小さな確認を積み重ねましょう。
今日からできるのは、説明の最後に「では、今お伝えしたポイントをもう一度教えてください」と添えること。それだけで、相手の理解度が見える化し、会話のズレを最小限に抑えられます。グラウンディングを味方につけて、誤解ゼロのコミュニケーションを育てていきましょう。

