毎日40人・年間1万人以上と会話しているRyoです。
薬局で患者さんと向き合っていると、言葉の並びだけで空気が変わる瞬間を何度も目撃します。
正直、ディスコース分析なんて学問の話だと思っていましたが、現場ほどその威力が発揮されると知ってから手放せません。
権力は言葉の流れに潜む
「説明」なのに圧迫に聞こえる理由
先日、後発医薬品をすすめるとき、若手スタッフが「これが一般的です」と言っただけで患者さんの表情が曇りました。後で録音を聞き返すと、言葉の並びが「患者さんの選択肢を奪う流れ」になっていたんです。ディスコース分析は、会話を文脈ごとに切り分け、どこで主導権が移ったのかを追う方法。たとえば「医師が決めた→私たちが従う→あなたも従う」という連鎖が隠れていれば、権力勾配が急に立ち上がります。
沈黙が強制力になる瞬間
患者さんが沈黙したとき、私は以前「理解できていない」と決めつけていました。でもディスコース分析を学ぶと、その沈黙が「了承するしかない」という圧を生むことがあると気づきます。説明後に「…わかりました」と搾り出す声には、隠れた諦めが詰まっている。沈黙後に再び話し始めた人の語尾を観察すると、しぶしぶ受け入れているのか、本当に納得したのかがわかります。
ディスコース分析の基本ステップ
ステップ1: 会話の転換点をメモする
録音やメモを使い、会話が切り替わった瞬間を記号で示します。私は矢印を使って「情報提供→疑問→回答→安心」の流れを視覚化。転換点で相手の表情や姿勢が変わったかを記録します。これを見返すと、どの言葉が相手の力を奪い、どの言葉が返しているかが一目でわかります。
ステップ2: 支配的な語彙を洗い出す
「普通」「当然」「皆さん」「決まり」といった語は、現場で権威を背負いがち。私は一週間分の会話から頻出語を抜き出し、スタッフに共有しました。「普通」と言った瞬間、患者さんは自分が異常なのかと身構える。そこで「よくある」「選ばれることが多い」と言い換えるだけで、場の緊張がほどけた経験があります。
ステップ3: 対話の位置取りを再配置
ディスコース分析は「誰がどの位置から発言しているか」を見る学問。患者さんを「説明される人」に固定すると、対話は一方通行です。私は「一緒に薬の使い方を整えるパートナー」という位置を提案し、会話の冒頭で「今日の薬との付き合い方、どんな形が良さそうですか?」と尋ねます。質問からスタートすると、患者さんが主導権を取り戻す流れが生まれます。
現場で活かしたエピソード
「お願い」なのに命令に聞こえた事件
在宅訪問で患者さんに記録ノートを書いてもらう必要があり、「しっかり記入しておいてください」と伝えたところ、翌週ノートは空白でした。後で話を聞くと、「やる気ないって責められた気がした」とのこと。私は会話ログを振り返り、「しっかり」という語が相手を下位に置いていたと気づきました。それ以降、「次回一緒に振り返りたいので、気づいたことをメモしておいてもらえると助かります」と言い換えたところ、ノートにぎっしりと感想が書かれるようになりました。
医師への報告メールでの失敗
医師に報告したメールの冒頭に「患者さんが服薬を守っていません」と書いたら、医師から「あなたが管理して」と冷たい返信。ディスコース分析の視点で読み返すと、患者さんが加害者、医師が裁判官、私は通報者という構図になっていました。そこで「患者さんと試行錯誤中です。こういう状況ですが、〇〇先生のご経験からアドバイスをいただけませんか?」と書くように変えたら、医師も協力的に情報をくれるようになりました。
権力をほぐす会話デザイン
質問の順番で主導権を配分
私は「確認→提案→選択肢提示」の順で質問を組み立てます。まず「いつもどの時間に飲めていますか?」で現状を相手に語ってもらい、次に「気になる点はありますか?」で主導権を渡す。最後に「朝と夜だとどちらがやりやすいですか?」と選択肢を渡すと、患者さんは自分で決めた感覚を持ちやすい。ディスコース分析的には、主語を相手に戻す瞬間を丁寧につくることが大事です。
物の配置もディスコースに影響する
カウンター越しの仕切り板が高すぎると、こちらが上から見下ろす構図になります。私は透明の低い板に変えてもらい、会話中は座って目線を揃えるようにしました。物理的な位置が変わると、言葉の流れも変わる。患者さんが質問を挟むタイミングが増え、権力の傾きが緩やかになりました。
ディスコース分析をチームで回す方法
ランチタイムのミニワーク
週に一度、スタッフの昼休みに5分だけ会話ログを読み合わせます。「この表現、どう感じる?」と意見を交わすと、言葉の背景にある権力感覚が共有されます。私はホワイトボードに「支配」「協力」「共創」といったカテゴリーを書き出し、ログを貼り付けていきます。
フィードバックのルールづくり
言葉を指摘するときは「責めず、仕組みで直す」と宣言しています。「あなたの言葉遣いが悪い」ではなく「こういう流れになると、患者さんが下がってしまう。次回からは質問で始めよう」と提案する形。これでスタッフも防御的にならずに改善できます。
応用例: クレーム対応とディスコース
「謝罪→説明→お願い」の危険
クレーム対応でよくある流れが「謝る→事情を説明→やってほしいことをお願い」。でもこの順番だと再び権力がこちらに傾き、相手に「また命令された」と感じさせます。私は途中に「聞き取り」を挟み、「今回のことで一番困っていることは何ですか?」と尋ねます。相手の声をディスコースの中心に戻せば、交渉が柔らかくなります。
SNSでの炎上予防
公式アカウントの返信もディスコース分析で整えています。批判コメントに対し「当店では〇〇を徹底しております」とだけ返すと、読んでいる人に「上から説明して終わり」と映ります。そこで「いただいたご指摘を、待合室の掲示内容とスタッフの声かけに反映します」と未来志向の文脈を足すと、権力の偏りが軽減されます。
よくある質問
Q1. 録音すると嫌がられませんか?
私は「サービス向上のため、会話を記録して言葉選びを見直しています」と事前に伝え、録音しない日もあることを示します。患者さんが不安に感じたら即停止。透明性を保つことで協力を得やすくなります。
Q2. 分析が細かすぎて疲れます
完璧を目指さず、1日1フレーズだけ焦点を当てると続きます。今日は「普通」という言葉、明日は「しっかり」。小さな分析でも積み重なれば会話の空気が変わります。
Q3. 権力の話をチームにどう伝える?
「権力」という言葉は重いので、「言葉の流れで相手が動きにくくなる瞬間がある」と言い換えます。実際の会話ログを見せ、「この一言で質問が止まったよね」と具体的に説明すると納得してもらえます。
まとめ: 言葉の背後に目を凝らす
ディスコース分析は難しい理論書ではなく、現場の空気を整えるレンズです。言葉の順番、沈黙の長さ、視線の向き。そこに潜む権力関係を見抜けるようになれば、患者さんやお客様はもっと安心して本音を語ってくれます。私も日々のカウンターで、言葉の流れを少しだけ書き換えながら、対等な対話を育てています。明日の会話でも、言葉の背後にある力の向きを観察してみませんか?

