フット・イン・ザ・ドアとは?小さなお願いから大きなYESを引き出す方法

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毎日40人・年間1万人以上と会話しているRyoです。薬局で患者さんと話していると、「最初は断られても、小さなお願いから始めたら最後には受け入れてもらえた」という経験が何度もあります。これが心理学でいうフット・イン・ザ・ドア。今回は現場で使える形に落とし込みます。

目次

小さなYESが大きなYESを呼ぶ仕組み

フット・イン・ザ・ドアとは

フット・イン・ザ・ドアは、小さな依頼に承諾してもらい、相手の自己イメージを「この人を手伝う人」に更新してから、本命の大きなお願いを通す手法です。かつて私が在宅療養中の患者さんに定期的な訪問服薬指導を提案したとき、最初に「1週間後に電話で様子を伺ってもいいですか?」と小さな依頼を通しました。結果、電話で信頼関係を築いた後に「月1回の訪問にも伺ってよろしいですか?」と切り出したら、すんなりOK。人は一貫性を保ちたい生き物なので、「小さな承諾」を積み重ねると「大きな承諾」に自然とつながるのです。

読者が抱える課題

営業でも医療でも、「いきなり本題を切り出したら断られた」という相談をよく受けます。保険の提案、追加サービス、患者さんへの生活習慣改善など、大きなお願いを最初からぶつけてしまうと、相手は防御モードに入ります。フット・イン・ザ・ドアは、その壁を丁寧に低くしていく技法です。

なぜ小さなお願いが効果的なのか

一貫性の原理が働く

人は一度イエスと言った相手に対して、次も応じないと自分の行動が矛盾するように感じます。心理学では「自己知覚理論」とも説明され、「私はこの人を助けるタイプだ」と自分を認識し直します。薬局で常連さんに「体調どうですか?」と聞くだけでも、「私はこの薬剤師に体調を伝える人だ」と定義づけられ、後の服薬指導がスムーズになるのです。

信頼貯金が増える

小さなお願いを重ねる過程で、相手は「この人は無茶を言わない」「段階を踏んでくれる」と感じます。私は在宅訪問を増やす際、最初は「処方箋の写メを事前に送っていただけますか?」とお願いし、対応してもらえたらすぐ感謝を伝えます。すると次に「訪問時間を調整させてください」と言いやすくなる。小さな成功体験を積み上げることで、相手の安心感が増していきます。

拒否の心理的コストが下がる

大きな依頼を急に受けると、「断ったら気まずい」「でも応じるのは負担」と葛藤が生まれます。小さな依頼なら負担が軽く、相手も気楽に答えられる。そこから徐々にハードルを上げることで、拒否のコストを感じさせずに進められます。

フット・イン・ザ・ドアを成功させる手順

ステップ1: ゴールと中間ステップを設計

いきなり頼んで断られた経験を振り返ると、中間ステップが曖昧だったケースが多いはずです。私は訪問指導をお願いする前に、以下の3ステップを用意します。

  1. 電話フォローの承諾
  2. LINEでの相談許可
  3. 定期訪問の提案
    このようにゴールへの階段を可視化すると、どのタイミングで何をお願いするか迷いません。

ステップ2: 最初のお願いは1分で終わるものにする

初動は本当に小さく。例えば営業なら「資料を送ってもよいですか?」、医療なら「今日の薬の感想を次回来局で教えてください」。私は患者さんに「次回来局のとき、飲み忘れた日があったら教えてください」とお願いし、報告があったら必ず「助かります」と感謝を言葉にします。

ステップ3: 承諾後のフォローを即座に行う

小さなお願いを受け入れてもらった直後が信頼を貯めるチャンス。「ありがとうございます、助かりました」とその場で伝えると、相手の満足感が高まり、次の依頼にも前向きになります。私は電話フォローを承諾してくれた患者さんに、電話の最後で「また状況教えてくださいね」と軽く宿題を出しつつ、「お話しできて安心しました」と気持ちを伝えます。

ステップ4: 本命の依頼はタイミングとメリットをセットで

小さな承諾が2〜3回続いたら、本命のお願いを切り出します。ただし「こちらの都合だけ」にならないよう、相手のメリットも忘れずに。「定期訪問させていただくと、薬の残数をその場で確認できるので飲み忘れを防げます」と伝えると、相手も納得しやすくなります。営業でも「追加プランを使うと、既存の問題がこう改善します」と具体的なベネフィットを添えましょう。

フット・イン・ザ・ドアの活用シーン

医療現場

・生活習慣の改善を促すときは、まず「毎朝の血圧を3日分だけメモしてみませんか?」と小さなステップを提案。
・服薬アドヒアランス向上では、「次回の来局までに気になった副作用を一つ教えてください」と依頼。
・在宅訪問の提案時は、「一度お宅の環境を電話で確認させてください」とハードルを下げる。

営業・接客

・新サービスの導入前に「5分のオンライン相談に参加してもらえますか?」とお願いする。
・定期購入を進める前に「1週間の無料サンプルを試して感想を教えてください」と提案。
・口コミ依頼は「短いアンケートに答えていただけますか?」から始め、後でレビュー投稿をお願いする。

組織内の調整

・部署横断プロジェクトで協力を得たいとき、「資料の確認だけお願いできますか?」と小さな依頼を出す。
・上司に提案を通す前に、「10分だけ時間をください。概要を共有します」と小さな承諾を得る。
・新人に業務改善を提案するとき、「今日一つだけ気づいたことをメモしておいて」と頼み、後で改善案を一緒に考える。

信頼を積み上げるルーチン化テクニック

小さなお願いリストを作る

現場でフット・イン・ザ・ドアを使うには、日常的に使える小さな依頼をストックしておくことが重要です。私は患者さんごとに「お願いリスト」を作り、「飲み忘れチェック」「副作用のメモ」「次回の血圧測定」などを記録。状況に応じて適切な小さなお願いを選べるようにしています。営業であれば、「資料閲覧」「アンケート回答」「事例紹介の共有」など、段階別のメニューを作っておくと、話の流れを組み立てやすくなります。

承諾後のサンクスルーティンを設計

小さなお願いを受け入れてもらった後の対応こそ、次の成功を決める鍵。私は承諾をもらった瞬間に「ありがとうございます。〇〇さんのおかげで助かりました」と名前を添えて感謝します。また、1週間以内にフォローのメッセージを送り、「前回お願いした件、すごく助かりました」と結果を共有。これが信頼貯金を増やし、次のお願いへの心理的障壁を下げます。

断られたときのリカバリープラン

フット・イン・ザ・ドアは万能ではなく、断られることも当然あります。その際は、「分かりました。では別の形でサポートさせてください」と引き下がる。私は断られた理由をメモし、「タイミング」「負担の大きさ」「信頼残高」のどれが原因か分析します。次にお願いするときは、負担をさらに減らすか、先に価値提供を増やす。丁寧なリカバリーができれば、相手から「今回はできなかったけど、次は協力するよ」と前向きな言葉が返ってきます。

失敗談から見えた改善ポイント

焦りが相手の警戒心を生む

新人の頃、私は在宅訪問を増やしたい焦りから、初対面の患者さんにいきなり「来週訪問していいですか?」と切り出してしまいました。当然、「まだ早い」と断られ、信頼を得るまで時間がかかりました。その後は、まず「電話で飲み方を確認しますね」と小さなステップを挟み、信頼を積んでから訪問を提案。焦りが出そうなときは「今日は一歩だけ」と自分に言い聞かせるようにしています。

小さなお願いが相手の負担になっていないか振り返る

小さいと思っているのは自分だけ、という失敗もありました。高齢の患者さんに「次回来局までに血圧をメモしてください」とお願いしたところ、文字を書くのが苦手で負担だったのです。そこで「血圧計の履歴を写真に撮ってください」と依頼内容を変更。小さなお願いが相手にとって本当に小さいのか、確認する視点が欠かせません。

小さなお願いを通じて相手の価値観を探る

フット・イン・ザ・ドアは単に承諾を積むだけでなく、相手が何を大切にしているかを知るチャンスです。私は「次回、薬を飲むタイミングで困ったことがあれば教えてください」と依頼し、返ってきた答えから「夜遅くまで働いていて食事時間が不規則」という情報を得ました。その価値観を踏まえ、「夜でも飲みやすい工夫」を提案できたことで、信頼が深まりました。

よくある失敗と注意点

最初のお願いが大きすぎる

「ちょっと手伝ってください」と言いながら30分の作業を頼むと、相手は「だまされた」と感じます。私は新人時代、先輩に「この書類だけチェックして」と頼まれたら、実は分厚い冊子で1時間取られた経験があります。そのときの疲労感と不信感は今でも覚えている。最初の依頼は本当に小さく、負担を明確に伝えましょう。

承諾への感謝を忘れる

小さなお願いを受け入れてもらったら、必ず感謝を言葉にする。これが抜けると、相手は「利用された」と感じます。私はスタッフに「報告ありがとう、助かった」と必ず伝えます。簡単な一言が次の協力を生みます。

本命の依頼で急に態度が変わる

小さなお願いでは腰が低いのに、本命で急に押しが強くなると、相手は「最初からそれが目的だったのか」と警戒します。段階を踏んだ丁寧さを最初から最後まで貫くこと。私は定期訪問を提案するときも、「ご負担が増える部分はありますか?」と質問し、配慮の姿勢を崩しません。

現場での成功ストーリー

ケース1: 生活指導の定着

糖尿病治療中の患者さんに食事記録をお願いした際、最初は「忙しくて無理」と断られました。そこで「夜だけ1品、食べたものを写真に撮って見せてください」と依頼。1週間後に「朝も撮ってもらっていいですか?」と段階を上げ、最終的に食事記録アプリで毎日入力してもらえるようになりました。小さな成功体験の積み重ねです。

ケース2: 法人営業での大型契約

知人の営業担当者は、新システム導入の提案でフット・イン・ザ・ドアを活用。最初に「現行システムの課題を10分だけヒアリングさせてください」と依頼し、了承を得た後、改善案のラフ資料を送り、「30分だけディスカッションさせてください」と段階を踏みました。最終的に年契約を獲得。小さな関わりを積み重ねた結果です。

ケース3: チームの協力体制づくり

薬局で新しいシフト制度を導入するとき、いきなり全員のシフトを変えるのではなく、「来週だけ試験的に早番を1人増やしてみていい?」とお願いしてスタート。問題がなかったので、「次は2週間だけ続けたい」とステップを踏み、最終的に定着しました。小刻みな変化が抵抗感を和らげます。

ケース4: 家族との信頼づくり

家族に生活習慣を変えてもらうときも、フット・イン・ザ・ドアが役立ちます。私が親に運動を勧めた際、最初は「毎日歩こう」と言っても動いてくれませんでした。そこで「夕食後に5分だけ一緒に散歩しよう」と誘い、次に「週末は10分歩いてみない?」と徐々に延長。やがて自分から「今日は20分歩いてきたよ」と報告してくれるようになりました。家族であっても、段階を踏んで成功体験を積むことが大切です。

ケース5: オンラインコミュニティでの関係構築

私が運営を手伝う患者コミュニティでは、新規参加者にいきなり長文の自己紹介を求めるのではなく、「好きな飲み物を一言教えてください」と気軽な質問からスタート。その後、「最近の体調を一文だけ」→「困っていることを1つ教えてください」と段階を踏み、最終的に詳細な相談が届くようになりました。オンラインでも小さな承諾を積み上げれば、信頼は確実に深まります。

まとめと実践チェック

今日から使えるフット・イン・ザ・ドアのポイント

  1. ゴールから逆算して小さな階段を設計する。
  2. 最初のお願いは1分で終わる負担にする。
  3. 承諾後は即座に感謝を伝える。
  4. 本命の依頼はメリットと一緒に提示する。
  5. 段階を踏んだ丁寧さを最後まで貫く。

小さなお願いで始めることは、相手の負担を減らすだけでなく、自分自身の心の準備にもなります。薬局での経験から言えるのは、信頼は積み木のように少しずつ積み上がるということ。今日の業務で、まずは「1分で終わるお願い」を一つ試してみてください。静かに差し出した一歩が、驚くほど大きなYESを連れてきますよ。
最後に、お願いを重ねるときは「相手の成功」を一緒に祝うことを忘れずに。私は小さな承諾をもらった翌週に、「先日のご協力で〇〇が改善しました」と成果を共有し、相手の貢献を称えます。人は自分の行動が誰かの役に立ったと実感した瞬間、また力になりたいと思うもの。フット・イン・ザ・ドアはお願いのテクニックであると同時に、相手の価値を認め合う儀式です。丁寧に積み重ねれば、ビジネスも医療も家庭も、驚くほど穏やかな協力関係で満ちていきます。

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この記事を書いた人

現役薬剤師として、人と向き合う仕事を続けてきました。
患者さんとの何気ない会話の中に、信頼や安心が生まれる瞬間がある――そんな「伝え方」の力に魅せられて、このブログをはじめました。

いまは医療の現場を離れ、**「伝える力」「聴く力」**をテーマに、日常や職場、家族の中で使えるコミュニケーションのヒントを発信しています。

心理学や会話術、言葉選びの工夫など、明日から使える内容を中心に。
読んだ人の人間関係が少しでもやわらかくなるような記事を目指しています。

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