毎日40人・年間1万人以上と会話しているRyoです。今日も薬局カウンターの奥で、患者さんの「聞いてます?」という目線と格闘していました。実は、相手がうなずいていても心ここにあらず――そんな場面、現場ではしょっちゅうです。
擬似リスニング(フェイクリスニング)は、会話の表面だけをなぞっている状態。こちらが一生懸命伝えているのに、相手が内容をまったく覚えていない。逆に、自分が忙しくて気持ちが追いつかず、形だけのうなずきでやり過ごしてしまうこともあります。今回は、そんな擬似リスニングの正体と、現場でどう向き合えばいいのかを徹底的にまとめました。
擬似リスニングに悩むのはどんな人?
カウンター越しに感じる「聞き流し」への不信感
朝の忙しい時間帯、処方箋を抱えた患者さんが立て続けに来局します。こちらは確認事項をテンポよく伝えたい。一方で患者さんは、会社に遅れまいと時計ばかり見ている。返事は「はい、はい」といいつつ、手元のスマホをいじっている――これが擬似リスニングの典型例です。接客や営業の現場でも、同じような空気を肌で感じる人は多いでしょう。相手の気持ちが離れていく感覚は、話し手の自信を確実に削っていきます。
忙しさがつくる自分自身のフェイク
患者さんだけでなく、私たち話し手も擬似リスニングの加害者になりがちです。午後のピーク時、頭の中は次の薬歴入力でいっぱい。患者さんが世間話を振ってきても、適当に笑って切り上げてしまう。後になって「あの方、何を言っていたっけ?」と焦る。忙しい現場ほど、心を込めた傾聴がむずかしいことを実感しています。
擬似リスニングが起こる原因を紐解く
認知負荷のオーバーと感情の遮断
擬似リスニングは、情報量が多すぎて処理しきれないときに発生しやすくなります。脳がキャパオーバーになり、言葉は聞こえているのに意味を整理できない。医療の現場では、専門用語の羅列が患者さんの集中力を奪います。逆に、こちらもクレーム対応で感情を守るために自動モードへ逃げ込み、話を右から左に流してしまうことがあります。
自己防衛としての「聞いているふり」
人は、相手を傷つけたくない、場を壊したくないという思いからフェイクな傾聴を選びます。「今は時間がない」と正直に言えば角が立つ。だからうなずきでやりすごす。これは自己防衛の一種です。しかし、相手は空気でそれを察知します。過去に、私は患者さんから「今伝えた副作用の件、ちゃんと確認してほしい」と釘を刺されたことがあります。表情や間にこそ、擬似リスニングはにじみ出るのです。
擬似リスニングを見抜くサイン
反応の遅れと定型句の多用
実際の現場で気づきやすいのは、返答までの微妙な間です。「なるほどですね」「そうなんですね」といった定型句が続き、こちらの質問に対して具体的なリアクションが返ってこない。薬の飲み方を説明した直後に同じ質問を繰り返されることもあります。これは内容が頭に入っていない証拠です。
目線と身体の開き方
人は集中して聞いているとき、身体を少し前に傾け、目線を合わせようとします。擬似リスニング状態では、視線があちこちに散り、足や肩が出口の方を向いていることが多い。私は、患者さんがカウンターの端にカバンを置いたまま身体を斜めに向けた瞬間、「あ、心が離れたな」と察知します。この微妙な身体のズレを見逃さないことが重要です。
擬似リスニングから脱するための実践ステップ
ステップ1:会話の目的を明示する
最初に「大事な副作用の話をしますので、3分だけお時間ください」と宣言すると、相手は重要度を理解しやすくなります。営業であれば「今日は契約書の変更点を3つだけ共有します」と区切る。目的を共有することで、相手の認知資源をこちらに向けてもらえるのです。
ステップ2:相手の言葉を要約して返す
擬似リスニングに陥らないためには、こちらが聞き手になる瞬間も意識的につくる必要があります。患者さんが「朝は食欲がなくて薬を飲み忘れる」と言えば、「朝は食べられないので薬が後回しになっているんですね」と要約し、確認します。この反射があると、相手も「ちゃんと聞いてくれている」と安心して本音を話してくれるようになります。
ステップ3:視覚サインを揃える
うなずきや相づちだけでなく、目線、手の動き、メモを取る仕草を統一しましょう。私は、重要なポイントは必ず紙に書き出して患者さんと共有します。視覚情報が入ることで、相手も内容を定着させやすくなり、擬似的なうなずきから脱出できます。
現場で使える会話スクリプト
忙しい相手とのショート対話
「今お急ぎですよね。要点だけ30秒でお伝えします。飲むタイミングは朝食後、万一飲み忘れたら昼に回してください。今お伝えした内容で不明点はありますか?」
短く区切り、最後に理解確認を入れると、相手は自分の言葉で言い直してくれます。この瞬間が、擬似リスニングから真の対話へ切り替わるポイントです。
フェイク気味な返事へのテコ入れ
「さっきから『はい』と返事をくださっているのですが、もし気になる点があれば遠慮なく止めてください。私も焦っているので、言葉が早すぎないか心配で。」と自分の状態を伝えると、相手は安心して質問してくれます。弱さを見せることで信頼が生まれる。これは私がクレーム寸前の場面を何度も乗り切ってきた鉄板フレーズです。
擬似リスニングに陥らないためのセルフケア
マイクロ休憩で感情をリセット
1時間に一度は深呼吸を3回。ほんの20秒でも良いので、視線を処方箋から外し、肩回しをします。身体がリラックスすると、相手の言葉に再び心を開けるようになります。私はこれを怠ると、夕方には表情が固まり、患者さんが警戒してしまうのを何度も経験しました。
1日の終わりに「聴けた瞬間」を記録
寝る前に、今日きちんと聴けた会話を3つ書き出します。成功体験を積み重ねると、「自分は聴ける」という自己効力感が高まり、擬似リスニングに陥りにくくなります。逆に、うまく聴けなかった場面も書き留めて、翌日の改善策を考える。現場で働く私たちにとって、自己対話は最大のメンテナンスです。
チームで擬似リスニングを防ぐ仕組み
朝礼で共有する「聞き方のテーマ」
薬局では、毎朝のカンファレンスで「今日は相手の表情を10秒観察してから話し始める」「今日は要約を必ず2回返す」といったテーマを1つ決めています。同じテーマをチーム全員で意識すると、忙しさに流されても互いに声をかけ合える。営業チームでも朝礼でテーマを揃えておくと、「今日のアポは相手のペースに合わせて話す」など具体的な行動に落とし込みやすくなります。
同僚同士のフィードバックカード
患者対応がひと段落したタイミングで、私は同僚と手書きのフィードバックカードを交換しています。「あのご高齢の方への説明、途中で目線が外れていたよ」など、客観的な視点が入ると擬似リスニングのクセに気づきやすい。カードには必ず良かった点も書くルールを設け、ネガティブになりすぎないようにしています。これが習慣化すると、チーム全体で傾聴の質が上がっていくのを実感します。
擬似リスニングを減らすトレーニング
録音・録画で自分の聞き方を可視化
ロールプレイを録音し、相手の話にかぶせてしまった瞬間や、定型句ばかり使っている場面をチェックします。自分の声を聞くのは正直しんどいのですが、客観的な振り返りにはこれが一番効く。薬局でも、患者さんに許可をいただき、説明内容を録音して後で自己評価することがあります。聞き方のクセを可視化することで、擬似リスニングのパターンをピンポイントで修正できます。
5分間シャドーイング
相手の話をそのまま復唱する「シャドーイング」は、集中力を保つトレーニングに最適です。私は研修生に対し、1人が患者役、もう1人が薬剤師役になり、5分間の会話をひたすらオウム返ししてもらいます。終了後に「どの言葉が印象に残ったか」を振り返ると、本当に聞けているかどうかが明確になります。
現場の成功事例と失敗事例
成功:副作用相談の本音を引き出せたケース
以前、肌荒れの副作用が心配だという患者さんが来局しました。最初は「大丈夫です」と繰り返すだけだったのですが、私は要約と確認を丁寧に挟み、視線を合わせ続けました。すると突然、「実は明日結婚式の前撮りがあって…」と本音がこぼれました。擬似リスニングで流していたら絶対に聞けなかった一言です。その後、皮膚科に相談できるよう段取りを整え、心からの感謝をいただきました。
失敗:忙しさに負けてクレーム寸前
逆に、年末の繁忙期に私は大きなミスをしました。待ち時間が長引き、患者さんのイライラを感じつつも、私は淡々と説明を進めるばかり。質問を受けても「大丈夫ですよ」とだけ返し、深掘りをしなかった結果、後日「話を聞いてくれなかった」とクレームに発展しました。これをきっかけに、忙しいときこそ相手の感情に名前をつけて口に出す「感情ラベリング」を意識するようになりました。
擬似リスニングを減らすためのチェックリスト
- 会話前に目的と所要時間を共有したか
- 相手の言葉を自分の言葉で要約したか
- 質問を受けたら、背景にある感情まで確認できたか
- 相手の身体の向きや視線の変化に気づけたか
- 自分の心身の疲れをセルフケアで整えたか
1つでも抜けた項目があれば、擬似リスニングが忍び寄っているサインです。私はカウンターに小さなメモを貼り、1日3回はこの項目を読み返すようにしています。
よくある質問Q&A
Q1. 相手が明らかに聞いていないとき、どう切り込む?
「少し情報量が多かったかもしれません。いったん要点を整理しましょうか?」と提案し、会話を仕切り直します。責めず、こちらの配慮を強調することで相手の防衛心を和らげられます。
Q2. オンライン面談ではどう対応する?
画面越しは特に擬似リスニングが起こりやすい。私は重要な話に入る前にチャットで要点を箇条書きし、相手に「この3つを中心に進めても大丈夫ですか?」と確認します。目線が合いづらい分、資料共有やチャットで補完するのがコツです。
Q3. 自分が疲れているときの切り抜け方は?
正直に「今ちょっと頭が回っていなくて、確認のためにメモを取ります」と伝えます。弱さを見せると、相手もペースを落としてくれることが多い。プロとしての信用を落とすどころか、「誠実だ」と受け止めてもらえるケースのほうが多いです。
医療安全の視点で見た擬似リスニング
情報伝達ミスはヒヤリ・ハットの温床
薬局ではヒヤリ・ハット報告書を毎月提出していますが、その多くがコミュニケーションの行き違いです。「1日3回」と説明したつもりが、患者さんは「食後すぐ」と解釈していた――こうしたズレは擬似リスニングから生まれます。私は報告書を書くたびに、「伝えた」だけではなく「伝わった」かどうかを記録するようにしています。医療安全委員会でも、聞き方・伝え方の訓練は安全文化の一部として扱われています。
ダブルチェックの導入で事故を未然に防ぐ
私は重要な説明を終えたら、必ず「私からの説明を、お仕事仲間やご家族にどんなふうに伝えますか?」と問いかけます。相手が自分の言葉で説明し直すことで、理解の抜け漏れが浮かび上がる。ここで引っかかった部分は、文字にしてお渡しする。ダブルチェックを仕組み化すると、擬似リスニングが原因のインシデントを大幅に減らせます。実際、私の店舗ではこの声かけを徹底した結果、用法間違いのヒヤリ・ハットが半減しました。
擬似リスニングを防ぐ1日のタイムライン
朝:準備ルーティンで集中力を整える
開局前の15分で、その日に来局予定の在宅患者さんの情報を読み返し、「この方にとって譲れないポイントは何か」をメモします。相手の背景を思い出すことで、会話の入口が明確になり、惰性でうなずいてしまうリスクを減らせます。営業職なら訪問先の過去商談メモを見直すのが同じ効果を生みます。
昼:感情の棚卸しをする
昼休憩に入る前、私は「午前中で心が離れたと感じた瞬間」を手帳に書き出します。たとえば「〇〇さんに質問を遮ってしまった」など具体的に。気づきを言語化すると、午後の対応で同じミスを繰り返す確率が下がります。3分でもいいので静かな場所で呼吸を整えると、午後の集中力がまるで変わります。
夜:音声で振り返りを残す
帰宅後、スマホのボイスメモに1日の気づきを吹き込みます。「〇〇さんへの傾聴が足りなかった」「こう言えば良かった」などを音声で残すと、翌朝に聞き返したときに臨場感が蘇り、改善のヒントが定着します。文章にする時間がなくても音声なら2分で完了。忙しい現場人ほどおすすめです。
まとめ:擬似リスニングは気づいた瞬間から修正できる
擬似リスニングは、誰にでも起こりうる自動運転です。でも、身体のサインに気づき、会話の構造を整え、セルフケアを取り入れれば、すぐに修正が効きます。薬局で培った小さな工夫が、接客や営業の現場でも役立つはず。忙しいからこそ、相手の声を丁寧に受け止める習慣を仕込みましょう。明日もカウンターでお待ちしています。

