毎日40人・年間1万人以上と会話しているRyoです。現場で後輩に同じことを何度も説明しながら「なんで覚えてくれないんだ…」と頭を抱えた経験、僕にも山ほどあります。今日はそのモヤモヤを解きほぐしましょう。
「覚えない」は本当に本人のせい?
頭ではなく環境が邪魔しているケース
僕が管理薬剤師として赴任した店舗で、調剤過誤が続いたときのこと。新人に何度も手順を教えたのに改善されず、正直イライラしていました。でも冷静に振り返ると、調剤台が狭くて指差呼称がしづらい配置だったんです。そこで動線を少し変え、「ここをチェックするときは必ず赤ペンで丸をつける」と視覚的な仕掛けを追加。すると一気にミスが減り、「覚えない」のレッテルは外れました。本人ではなく環境に原因があるパターン、意外と多いんです。
情報が塊で届くと脳が処理しきれない
人間の脳は、同時に処理できる情報量に限界があります。例えば、初回指導で「処方箋確認→鑑査→投薬」まで一気通貫で説明すると、新人の頭の中はパンク状態。僕はタスクを3分割し、確認ポイントをカードにして順番に渡すようにしています。「今は確認のカードだけ覚えよう」「次は鑑査のカードね」という具合に。分割して渡すと、翌日には驚くほど定着していました。
失敗への恐怖が記憶のブレーキになる
「覚えない」新人の多くが、実はメモも取っているし、家に帰って復習もしています。でも現場で手を動かすとき、失敗が怖くて動きがぎこちなくなる。僕は「間違えたら一緒に取り返そう」と伝えるだけでなく、失敗したときのリカバリ手順もセットで共有します。安心して挑戦できると、記憶が再生されやすい。恐怖が消えると、見違えるほど吸収が早くなるんです。
記憶を定着させる教え方の基本設計
STEP1: 入り口で目的と全体像を伝える
指導を始める前に「この作業のゴールは何か」「どの場面で使うのか」を必ず共有します。僕は「これは患者さんの安全を守るためのチェックだから、スピードより正確さを優先しよう」と前置きします。目的が分かると、覚える意味が自分ごとになり、記憶の優先順位が上がります。
STEP2: 具体例と比較例でイメージを固める
抽象的な説明だけではイメージがつかめません。例えばレセプトの算定条件を教えるときは、「この患者さんは慢性疾患で月1回受診だからA算定」「一方で、急性疾患のときはB算定」と比較例を提示。さらに、間違いやすいパターンを「ここでつまずきがち」と先回りして伝えると、頭の中に地図ができます。
STEP3: 小さな成功体験を先に渡す
人は「できた」という感覚があるほど、次の学びも前向きになります。僕は指導の途中で「今の確認、声のトーンが落ち着いていて安心感があったよ」と細かく褒めます。小さな成功を積み上げながら、「次はここまで任せてみよう」と階段を上がる設計にすると、記憶の定着がスムーズです。
STEP4: 24時間以内に振り返りをセット
記憶は睡眠を挟むと整理されます。だからこそ、翌日の朝礼で「昨日のポイント覚えてる?」と軽くクイズをする。僕の店舗では「昨日のギモンメモ」というホワイトボードを用意し、復習したい項目を書き出してもらいます。みんなで口に出して確認することで、記憶の糸が太くなります。
現場で使える5つの改善テクニック
1. 目線を合わせてショートフレーズで伝える
長い説明より、短いキーワードの方が覚えやすい。調剤室で僕は「ラベル・薬・患者、順番に見よう」というリズム言葉を使います。目線を合わせて伝えると、耳から入った言葉がそのまま体の動きに変わりやすい。忙しい場面でもパッと思い出してもらえるよう、語感を工夫しています。
2. 視覚と触覚を組み合わせる
言葉だけでなく、手を動かしながら覚えてもらう。例えば在庫管理を教えるときは、棚のラベルを一緒に貼り直しながら「この色は定数超過、こっちは要発注」と説明します。触ることで記憶が強化され、覚えやすくなるんです。
3. メモは「マイ辞書」を一緒に作る
新人が書いたメモをチェックすると、略語や漢字の間違いが多くて後で読めなくなることがあります。僕は一緒に「マイ辞書ノート」を作り、キーワードと意味、注意点を見開きでまとめるようにしています。僕のコメント欄も作って、「ここの言い回し、患者さんへの説明に使えるよ」と書き込む。メモが共有財産になると、覚えるスピードが上がります。
4. 失敗データベースでパターン認識
店舗で起きたヒヤリ・ハットを一覧化し、「このミスはどの手順で起きた?」を振り返る時間を作ります。新人と一緒に見返しながら、「似た状況になったらどうする?」と考える練習を繰り返す。過去の失敗をパターン化して学ぶことで、記憶の引き出しが増えていきます。
5. 翌日の任せ方を事前に共有
指導の最後に「明日はこの部分を任せるから、復習してみてね」と予告します。人は「明日使う」とわかると記憶を整理しやすい。翌日任せるときには「昨日のここ、すごく良かった。今日はそこから先を一緒にやろう」と感謝を添える。任される安心感が、記憶の定着を後押しします。
エピソードで見る改善のリアル
言い換えで一気に理解が進んだケース
ある新人がピッキング時のダブルチェックをいつも飛ばしてしまう。問い詰めると「2回見る理由がわからない」とのこと。そこで僕は「1回目は作業者の自分、2回目は未来の患者さんの視点で見るんだよ」と言い換えました。すると翌日から「患者さんチェックします!」と言って自然にダブルチェックが入るように。言葉の解像度を上げるだけで、覚え方がガラッと変わりました。
ルールが多すぎて覚えられなかったケース
別の店舗では、在庫管理ルールが細かすぎて新人が混乱していました。僕はルールを3つに絞り、残りは「困ったらこのシートを見る」で代替。さらに、倉庫の壁に写真付きのフローチャートを貼りました。結果、1週間後には「シートがあれば大丈夫」と笑顔で報告が。ルールをそぎ落とす勇気も、教え方改善の重要な要素です。
失敗の後にペアで復習したケース
調剤ミスが起きた翌日、僕は新人とペアで一連の流れを再現しました。「ここで気持ちが焦ったよね」と感情に触れつつ、正しい手順を再演。最後に「次はここで一呼吸いれて、『止まる・見る・言う』を思い出そう」とフレーズを渡しました。その新人は半年後には後輩に同じ言葉をかけるようになり、「あの時の復習が効きました」と教えてくれました。
教える側のセルフケアも忘れずに
感情のメンテナンス
「なんで覚えてくれないんだ」とイライラが積もると、声のトーンが尖ります。僕はそう感じたら、休憩室で5分だけ深呼吸しながら感情をメモに書き出します。「焦り」「不安」「責任感」など。自分の感情を整理してから現場に戻ると、穏やかさを取り戻せるんです。
指導の振り返りミーティング
週に一度、指導担当者同士で「今週うまくいかなかった指導」を共有しています。誰かの「言い方を変えたら伝わった」事例を聞くと、自分の指導にも応用できる。教える側が学び続ける姿勢を見せることも、新人のモチベーションにつながります。
教える人の休息を確保する
教える側が疲れていると、どうしても雑になりがち。僕はシフト表に「指導休憩」と書いて、30分だけ一人で落ち着く時間を確保しています。息を整えてから指導に戻る方が、結果的に早く覚えてもらえる。自分の体力を守ることも教え方改善の一部です。
よくある質問に答えます
Q1. 同じミスを3回繰り返したらどうする?
感情的に叱るのではなく、原因を一緒に分解します。「いつ」「どこで」「何を見落とした?」を整理し、手順カードやチェックリストに反映。さらに、3回目の後には必ず成功体験を意図的に作り、成功時の感覚を記憶に刻んでもらいます。
Q2. メモを取らない新人には?
メモを取らない理由を聞くと「何を書いていいかわからない」「後で読み返さないから」といった声が多い。僕は「ここがポイント」と枠線を引いたメモ用紙を渡し、一緒に書き込みながら「この一言があると安心するよ」と具体的に示します。自分の言葉で書けるようになるまで、メモのフォローを継続します。
Q3. 忙しすぎて教える時間がない
時間がないときこそ、事前に「ここまでできたらOK」というラインを共有しておきます。また、朝礼で1分間の「今日のワンポイント」を伝え、終業後に15分の振り返りをルーティン化。短時間でも継続すれば、ちゃんと記憶に残ります。
定着を加速させる7日間プログラム
Day1: 目的共有と環境整備
作業の背景と意義を伝え、必要なツールを整理。視覚的なサポートを準備する。
Day2: 体験型で覚える
手を動かしながら説明し、リズム言葉やショートフレーズを渡す。質問を歓迎する姿勢を見せる。
Day3: 復習カードで確認
24時間以内にクイズ形式で復習し、マイ辞書ノートを整える。成功ポイントを褒める。
Day4: 応用シナリオを一緒に考える
ヒヤリ・ハット事例を見ながら、「この場合どうする?」と応用問題を解く。失敗の手前で止まる練習をする。
Day5: 部分委任で実践
作業の一部を任せ、後ろから観察しながらフォロー。終わったら「ここが良かった」と具体的にフィードバックする。
Day6: 自主トレのサポート
新人自身に振り返りシートを書いてもらい、「自分はこう覚えた」を言語化してもらう。必要なら動画撮影でセルフチェックする。
Day7: 総まとめと未来への橋渡し
1週間で学んだことをプレゼンしてもらい、「次はどこを伸ばしたい?」を一緒に設定。達成を祝う言葉で締める。
まとめ:覚えないのではなく、覚えられる設計を
「教えても覚えない」は、教える側の設計次第でいくらでも変えられます。環境、手順、言葉、感情の支援を組み合わせ、覚えやすい道筋を一緒に作る。それが現場の安心と患者さんの安全につながります。今日からできる小さな改善を積み重ね、明日の「覚えた!」に繋げていきましょう。
学習タイプ別アプローチ
視覚優位タイプ
図や色分けが得意な新人には、プロセスをイラスト化して渡します。僕はタブレットで「処方箋→入力→鑑査→投薬」のフローチャートを描き、色で注意ポイントを示します。視覚で理解できると、自分で応用した資料も作り始める。実際、ある新人は自分専用のカラー付箋を持ち歩き、「青は要確認、黄色は手順メモ」と色で整理していました。
聴覚優位タイプ
耳から覚えるのが得意な新人には、声に出して復唱してもらいます。僕が「処方箋番号、患者さんの名前、薬剤名」とリズムよく読み上げ、同じテンポで繰り返してもらう。さらにスマホで録音して「通勤中に聞いてきていいよ」と渡すと、翌日にはスラスラ言えるようになるんです。
体感覚優位タイプ
体を動かして覚えるタイプには、ロールプレイが有効。患者役と薬剤師役を交代しながら、「ここで目線を合わせる」「薬袋を手渡すタイミング」を体で覚えてもらいます。手順書を読むだけではピンと来なかった新人が、ロールプレイを繰り返すうちに「この動きが気持ちいい」と感覚を掴んでくれました。
言葉の選び方で変わる印象
否定形より肯定形
「それは違う」より「こうするともっと良くなる」と伝える方が、記憶に前向きなタグが付きます。僕は否定形を使いそうになったら一呼吸おいて、肯定形に言い換える癖をつけました。新人から「ダメ出しじゃなくて提案に聞こえる」と言われ、指導の雰囲気が柔らかくなりました。
体験を呼び起こす比喩
比喩を使うと、感情と一緒に記憶が残ります。例えば「鑑査は患者さんの命綱だから、登山前にロープを確認するイメージで」と伝える。登山好きの新人はその比喩を気に入り、「ロープ確認します」と口癖になりました。相手の趣味や好きなものに合わせて比喩を選ぶのもコツです。
言葉の音のリズム
覚えてほしい言葉は、リズムを意識して整えます。「止まる・見る・言う」「読む・揃える・渡す」など、音数をそろえると覚えやすい。僕は朝礼でリズムを使った指導法を紹介し、みんなで声を合わせて唱える時間を作っています。
フィードバックのフォーマット
SBI法を現場仕様にアレンジ
状況(Situation)→行動(Behavior)→影響(Impact)で伝えるSBI法を、現場の言葉に翻訳して使っています。「昨日の夕方の投薬(S)で、患者さんの目を見て説明できていたね(B)。そのおかげで質問が減って、待ち時間が短くなったよ(I)。」と伝えると、記憶が定着しやすいポジティブなフィードバックになります。
改善提案は「3つの窓口」で
改善点を伝えるときは、「今すぐできること」「次回までに準備すること」「長期的に取り組むこと」の三段階で話します。新人は「今日はここまででいいんだ」と安心しつつ、「次はここを伸ばしたい」と未来を描ける。段階を区切るだけで、覚えるべき内容が整理されます。
質問の引き出し方
「分かった?」ではなく、「どこが曖昧?」と聞くと、答えが具体的に返ってきます。「今日の手順で一番しっくりこなかったところは?」と質問するのも効果的。曖昧さを言語化することで、記憶が整理されるんです。
定期的なフォローアップの仕組み
3日・3週・3か月のフォロー
僕は「3日後」「3週間後」「3か月後」に必ずフォロー面談を設定します。3日後は感情の確認、3週間後は行動の定着度チェック、3か月後は応用力を確認。段階的に振り返ることで、覚えた内容が長期記憶に移行します。
フィードバックカードの運用
新人に「気づきカード」を持ってもらい、指導を受けて気づいたこと・改善したことを書いてもらいます。僕は週末にカードを読み、コメントを返す。紙で残ると、後から読み返して復習できるので便利です。
相談窓口の複線化
指導担当者以外にも相談できる先輩を明示します。「計数が苦手ならAさん、患者対応ならBさん」と具体的に伝え、Slackにも相談チャンネルを作る。相談相手が複数いると、覚えられないストレスを一人で抱えなくて済みます。
データで見る「覚えられる教え方」
KPIの設定
感覚だけに頼らず、数値で振り返ることも大切です。僕の店舗では「質問数」「ミス件数」「自立してこなせた業務数」を週ごとに記録。質問が増えてミスが減っていれば、教え方がいい方向に向かっている証拠。数字で確認できると、次の指導策も立てやすくなります。
アンケートで本音を把握
月に一度、新人に匿名アンケートを実施し、「覚えづらかった指導」「役立ったサポート」「もっと欲しいフォロー」を聞きます。アンケート結果はチームで共有し、翌月の指導に反映。教える側の思い込みを外すきっかけになります。
研修記録のデジタル化
紙のノートだけでは管理しきれないので、クラウドで研修記録を共有。指導した内容、使った資料、反応などを記録し、シフトが違う先輩にも共有します。誰が指導しても同じ質に保てるので、新人が安心して学べる環境になります。
教え方をチーム文化に落とし込む
「覚えたら終わり」ではなく「覚え続ける」文化
僕の店舗では、毎月「学びの祭り」を開催して、新人も先輩も1つずつ最近学んだことを発表します。「教える=学び続ける」という文化が根付くと、覚えた内容をすぐ伝え合う循環が生まれます。
先輩同士のメンタリング
指導が得意な先輩と苦手な先輩をペアにして、互いの現場を見学。良い声かけを盗み合い、課題をフィードバックします。指導スキルのばらつきが減り、「誰に教わっても覚えやすい」状態に近づきます。
成功事例の共有会
毎月末に「覚えた瞬間ストーリー」を共有する会を開催し、うまくいった指導とその背景を話します。感動的なエピソードを聞くと、「自分も真似してみよう」とモチベーションが上がります。
忙しいときの応急処置フレーズ集
- 「今はここだけ押さえて、残りは僕がフォローするね」
- 「この一言だけ覚えて帰ろう。『止まって、見る』でOK」
- 「メモは僕が写真を送るから、帰り道に声で復習してみて」
- 「質問が出たらLINEに投げて。寝る前にまとめて返すよ」
- 「明日の朝5分早く来られたら、一緒にリハーサルしよう」
締めのメッセージ
覚えない人なんていません。覚えづらい状況があるだけです。教える側が環境を整え、言葉を磨き、感情に寄り添えば、新人の目はちゃんと輝きます。「また同じことを言ってる」と感じたら、教え方を変えるチャンス。今日の気づきを、明日の指導に差し込んでみてください。
明日から使える指導チェックリスト
- 今日伝えた内容を3つに分割して説明したか。
- 目的とゴールを冒頭で共有したか。
- 成功体験をその場でフィードバックしたか。
- 復習のタイミングを具体的に提案したか。
- 自分の感情を整える時間を確保できたか。
- 質問を引き出す問いかけを用意できたか。
- 新人の学習タイプに合わせた工夫を取り入れたか。
- 翌日に任せるタスクを予告したか。
- チームと指導情報を共有したか。
- 「覚えない」の一言で片づけず、要因を仮説立てしたか。
チェックリストを回すたびに、教え方の質が少しずつ整っていきます。焦らず、しかし着実に改善を続けていきましょう。
最後に、今日の記事を読んだあなた自身へのひと言。「覚えてくれない」と感じた瞬間こそ、信頼を積み直すチャンスです。相手の表情、声、メモ、沈黙まで観察して、「どうしたら覚えやすいかな?」と問い直してみてください。その問いを持ち続ける限り、教え方は必ず進化します。

